第69話 イザナミの体
修行開始から七日目ちょうど一週間がたった日、ユウヤはいつものように岩を木刀で割っていた。
ユウヤが昼食を食べて少し経った頃、ユウヤは岩を綺麗に真っ二つに斬り裂いた。
ユウヤは岩の断面を確認して安堵のため息をついた。
「ようやく斬れたか」
「そうみたいね」
イザナミもユウヤの隣に来て岩の断面を触って確認しながら呟いた。
「では、これから新しい修行を始めましょうか」
「そうだな」
イザナミは真っ二つになった岩をそれぞれ片手で持ち断面を合わせると、岩はくっついて元の岩に戻った。
「なんど見ても何をやってるのか分からないな、それ魔法じゃないだろ」
「気づいていたんだ。ええ、これは魔法ではないわ」
「神特有の力なのか?」
「ええ、神が全員使えるってわけじゃないけど、大体の神は使える力よ」
「その力で病気とか治せないのか?」
ユウヤの言葉にイザナミはユウヤの方を向いてユウヤの目を見ながら、優しく微笑みながら返した。
「出来るわよ。けど、今の私にはそこまでの力はないわ」
「今の?」
「初めて会った日、ユウヤは私の体は人間の物だと言いましたよね」
「そういえば、そうだったな」
「本来、神に肉体は無いんですよ。神は基本的に人の願いや儀式によって呼ばれ、巫女などの体を依り代に力を使うの」
「つまり、その体は依り代で本来の力を使うことが出来ないってことか?」
「ええ、使える力は依り代の質によって変わるわ。この体は依り代としての質はいい方だけど、私の癒しの力は強くないから病気を治すほどの力を引き出せないのよ」
ユウヤはイザナミの説明に目を瞑って少し俯いてすぐに顔を上げた。
「変なこと聞いてすまないな」
「気にしなくていいわ。あなたはとても母親思いなのね」
「そういう訳じゃないさ。ただの恩返しだ。そんなことより、早く修行を始めよう」
「そう。分かったわ。じゃあ、昨日言った通り、この岩を素手でさっきみたいに斬ってね」
「……本当にこれが斬れるのか?」
「ええ、斬れるわよ。こんな風に」
イザナミはユウヤに説明しながら大きな岩の手刀で一部を斬り裂いて見せてた。
ユウヤは簡単そうに言うイザナミに苦笑しながら斬られた岩の断面を見た。
「ああ、そうみたいだな」
「じゃあ、やっていきましょうか」
それからイザナミの木刀の時以上に細かい指摘を聞きながら、少しずつ無駄な力を無くして手刀で木刀や刀と同じような斬撃を出せる修行を続けた。
修行を初めて一週間が過ぎた頃に岩を斬ることが出来るようになった。
「漸く手で斬れるようになってきた」
「そうね。後は斬撃の範囲を広げることが出来るようになればいいわね」
「それが一番難しい気がするんだが」
「大丈夫よ。後二週間ちょっとで出来るようになるわ」
「けど、イザナミも最近は忙しくてあまり出来ないんだろ」
「ええ、来月お祭りがあるからその準備と、お祭りでする奉納の舞の練習で忙しいのよね」
「奉納の舞って神への奉納だよな?神様本人がやっても大丈夫なのか?」
イザナミの言葉にユウヤは首を傾げて問い返した。
「ええ、変な話よね。周りのみんな私が神様って知らないから、仕方ないんだけどね」
「けど、奉納の舞は今年が初めてなのか?」
「いえ、かれこれ百年はやっているわよ」
「もう練習いらないんじゃないのか?」
「まあ、必要はないけど、毎年やって来た習慣だからね。やらないと本番で失敗するかも知れないしね」
「そういうもんか」
ユウヤはイザナミと話し終わると岩の前に立ち集中して岩に手刀を振り下ろしてまた斬り裂いた。
岩を斬り裂いたユウヤは何か思い付いたようにイザナミの方を向いて話しかけた。
「なあ、祭りの準備俺も手伝おうか?」
「え?別に手伝ってもらわなくても大丈夫よ。ユウヤは修行に集中してて」
「いや、祭りの準備を手伝って早く終わってもらった方が、こうやって指摘を受ける時間が長くなるからな。一人でやるより、見てもらってる方が成長が早いからそっちの方が俺としても早く強くなれると思うんだ」
ユウヤの提案にイザナミは少し驚き考え始めた。
「確かに、そっちの方が効率はよさそうね」
「だから、俺も明日から祭りの準備は手伝うよ」
「そうね。じゃあ、明日から準備についていろいろ教えるわね」
「ああ、それじゃあ、続きを始めるか」
ユウヤはイザナミと話し終わると、再び岩の前に立って集中して岩を斬り始めた。
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