第46話 謎の声
ユウヤとレティシアが冒険者ギルドから出て宿に戻るために歩いて移動していると、噴水広場の噴水の近くにあるベンチでマユリが俯いて座っていた。
マユリは顔は見えないが、かなり寂しそうで悲しそうな雰囲気でベンチに一人で座って地面を見ていた。
ユウヤは寂しそうに俯いているマユリの姿を見て悪いことをしたと思いながら、マユリに近づいて声をかけた。
「マユリ、今日はライブ行けなくて悪かったな」
「ユウヤ……」
「ああ、依頼が思った以上に長引いて見に行けなかった」
「そっか……」
マユリは顔を上げてユウヤの顔を見ると、少し驚いた顔をしてユウヤの話を聞くと少し嬉しそうな顔をして俯いた。
「私のこと忘れたわけじゃなかったんだ……」
「今、なんて?」
小さな声で呟いたマユリの言葉を聞き取れなかったユウヤは聞き返したが、マユリは立ち上がるといつものように明るい笑顔をユウヤに向けてきた。
「なんでもないわ。それじゃあ、どこかに食べに行きましょ」
「ああ、そうだな。今日のお詫びにおごるよ」
「本当!じゃあ、この町で最高級のお店に案内するね」
「おいおい、せめて高級店くらいにしとけよ」
ユウヤのおごるという言葉にマユリは喜ぶとユウヤの手を引いて店に連れて行こうと引っ張る。
「じゃあ、高級店ね」
「そんなお金ない。そこそこ高い店で我慢して」
「えー、ライブ来てくれなかったのに」
「お金がないんだから仕方ないでしょ」
「まあ、無理ならいいけど」
お金が無いというレティシアにマユリは頬を少し膨らませて抗議するが、レティシアも引かなかったため、マユリは諦めてレティシアに言われた通りそこそこ高くて美味しい店に案内してくれた。
店に移動する間、レティシアとマユリはいろいろ言い合いをしながらも二人とも楽しそうに話していた。
楽しそうに話す二人の姿を少し後ろを歩くユウヤは微笑ましそうに見ながら、マユリのおすすめの店に向かった。
店に着くとマユリはおすすめの料理をユウヤとレティシアに教えた後、自分の注文は店で一番高い料理を数品頼んだことでレティシアに呆れた顔で見られていた。
「はあ、こうなると思ったから高級店に行きたくなかったのよ」
「あ、バレてた?」
「だってマユリ、人が驚くことや嫌がることするの好きでしょ」
「そんなこと無いと思うけどな~」
「いや、マユリはレティシアをからかってる時とても楽しそうだぞ」
「そんなこと無いと思うけど」
マユリはレティシアとユウヤに言われて、そうかなーと言いながら首を少し傾げて料理が来るまで談笑して待った。
料理が来ると、三人とも軽く話すだけで料理を食べることに集中した。
料理を食べ終わると、店を出て軽く出店を見ながら町を歩いて回った。
「ねえ、明日も遊べる?」
出店を見ながら歩いていると、不意にマユリが話しかけてきた。
「ああ、しばらくは町にいる予定だから朝から暇だぞ」
「私も新しい魔導書無かったし特に予定はないわね」
「じゃあ、明日の朝また噴水広場で会いましょ」
「ああ、いいぞ」
ユウヤが了承すると、マユリはユウヤ達から少し離れて振り向くと手を振って来た。
「じゃあ、また明日」
「ああ、また明日」
「また明日」
手を振り終わり帰っていくマユリの後ろ姿は噴水広場で俯いていた時とは比べものにならないくらいに嬉しそうだった。
そんなマユリの後ろ姿見送った後、ユウヤとレティシアも宿に戻って各々の部屋に入ると、寝る準備をしてベッドに横になった。
ユウヤがベッドに横になって眠りについて少しすると、部屋の中に現れた何かの気配にユウヤが飛び起きベッドの横に立てかけてある刀を持つと部屋の中を警戒しながら見回した。
しかし、部屋の中には何もおらず、物音一つしなかった。
『強き者よ……邪霊を……倒して欲しい……』
「!?」
何もいない部屋で途切れ途切れな何かの声が聞こえた。
ユウヤは警戒して周りを見るが、やはり何もおらず、ただ何かの気配だけがあった。
『……邪霊……倒して……』
「お前は誰だ!」
『私……は……』
段々と小さくなっていく声にユウヤが問いかけると、何かは名乗ろうとしたが声は小さくなり聞こえなくなった。
声が小さくなるのに合わせて気配も少しずつ消えていき、声が聞こえなくなるころには完全に消えていた。
「いったい、何だったんだ?」
ユウヤはその後警戒しながら眠りに着いた。
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