第29話 最高の弟子

 デザストルはユウヤと目が合うと、ユウヤ達が隠れている森に向かって火山から翼を広げて飛んで来た。


「まずい、逃げるぞ」


 ユウヤは隣にいたレティシアをすぐに抱え、龍壱とドロシーを背負い二人は全力でデザストルから逃げ出した。

 二人はかなりの速度で走って逃げたが、デザストルは四人の目の前の木々をなぎ倒して降り立った。

 デザストルは降り立つとすぐに尻尾を振り回して周りの木々を吹き飛ばした。

 ユウヤと龍壱はデザストルの尻尾の攻撃を屈んで回避した。


「先回りされた」

「やっぱり、逃げ切れんか」


 龍壱は悔しそうにそう呟いたが、木々を薙ぎ払った後からデザストルの攻撃が全く来なくなった。

 デザストルはユウヤに視線を向けてしばらくの間何かを考えているように固まって動かなくなった。

 四人がどうやって逃げるか考えていると、デザストルは突然話しかけてきた。


『やはり、私を呼んだのは貴様だな』


 四人は話しかけてきたデザストルに驚き固まったが、ユウヤはすぐに返した。


「お、俺はお前を呼んだ覚えはないぞ」

『ああ、言い方が悪かったな。私を引き寄せたのは貴様だな』

「何を言っているんだ?」

『気づいてないのか?まあいい、忌々しいことに変わりはない。貴様には死んでもらう』

「!?」


 デザストルは言い終わると、腕を振り上げてユウヤ達目掛けて容赦なく振り下ろした。

 ユウヤと龍壱はレティシアとドロシーを抱えて左右に飛びのいて攻撃を躱した。


「狙いは俺じゃないのか!?なんで他の人も狙う!?」

『それがどうした、人間が何人死のうが私には関係ない』

「なるほど」


 ユウヤは小さく呟くと、レティシアをそっと降ろしてその場から全力で飛びのき移動した。

 そして龍壱たちから出来るだけ距離を取った。


「龍壱さん、俺が囮になるのでその間に逃げてください」

「何を言っとるんじゃ、馬鹿者が!」

「他に方法がなんだからしょうがないだろ」

「……」


 ユウヤの言葉に龍壱は言い返そうとしたが、ユウヤの言う通り他に方法が無いため何も言い返せずに黙ってしまった。

 レティシアは自ら犠牲になろうとするユウヤを助けるためにデザストル相手に戦うために立ち上がった。


「ユウヤ!」

「レティシア、お前も逃げろ!」

「嫌よ、私は戦うわ!」

「何言ってるんだ、逃げろ!」


 レティシアはユウヤの忠告を聞かずに極大魔法を詠唱し、ユウヤを腕や尻尾で攻撃しているデザストルに向かって放った。

 レティシアの極大魔法により発生した巨大なプラズマの球体がデザストルに直撃し、極大魔法の熱量で周りの木々が燃えて炭になり、余波の衝撃で回りの炭となった木と地面を吹き飛ばした。


「これで少しは……」

「レティシア、俺を殺す気か!巻き込まれるところだったぞ!」


 ユウヤは極大魔法の直撃は何とか避け、余波の衝撃に吹き飛ばされていた。

 レティシアがユウヤに返事をしようと思ったが、極大魔法で上がった土ぼこりが晴れてきて見えたデザストルの姿を見て驚き声を上げることが出来なくなった。

 デザストルは極大魔法を受けて傷一つなくダメージをまるで受けていない状態で、レティシアの方を睨んでいた。


『小娘が、黙って見ておればよいものを、そんなに死にたいのか?』


 レティシアは走りながら一か所に留まらないようにしてもう一度極大魔法の詠唱を始めた。


『無駄なことを』


 デザストルはレティシアに向かって腕を振り下ろした。

 レティシアに攻撃は直撃はしなかったが、すぐ近くに攻撃されたことで余波によりレティシアは吹き飛ばされた。

 吹き飛ばされて地面に倒れたレティシアを見下ろして、デザストルは腕を振り上げた。


『死ね』


 レティシアは振り下ろされようとしているデザストルの腕に目を瞑って死を覚悟した。

 しかし、デザストルの腕の衝撃は襲ってこずに、誰かに抱えられる感触があった。

 自分を抱えているのが誰か確認するため、目を開けるとユウヤが抱えて左手に刀を持っていた。

 レティシアを抱えるユウヤの顔は、子供のころから一緒に居たレティシアでさ一度も見たことが無いほど、怒り狂っていた。


「ゆ、ユウヤ?」

「龍壱さんたちのところに行ってくれ」


 ユウヤはレティシアを降ろすと、デザストルに向かって歩き始めた。

 デザストルの先ほどレティシアに振り下ろそうとした腕には血こそ出ていないが、斬られた傷があった。

 しばらく、何が起きたか理解できなかったレティシアだが、少しずつ冷静になるにつれて少しずつ理解した。


「まさか、ユウヤだめ!」


 ユウヤはレティシアの声に返事をせずにゆっくりとデザストルに近づいて行った。

 デザストルも手の傷を一瞬で治すと近づいてくるユウヤを睨みつけた。

 ユウヤがデザストルに近づいて行く途中で、レティシアの近くに龍壱とドロシーが近づいて来た。


「大丈夫、レティシア」

「私は大丈夫です。それより、ユウヤを止めてください!」

「ユウヤは相当怒り狂ってるようじゃの」

「今のままだとユウヤは自分の魔力で、自分の魔力で死んでじゃう!」

「強い怒りで魔力生成器官が活性化したのか?」

「多分、ユウヤの生成量は排出量を大幅に上回る。もし、このまま魔力が増え続けたら、一時間で……」

「わかった」


 龍壱はデザストルと睨みあっているユウヤに気付かれないように近づきユウヤの頭を後ろから殴りつけ、ユウヤが振り返った瞬間に顎を殴り脳を揺らして気絶させた。


「悪いの」


 龍壱は気絶させたユウヤをドロシーに向かって投げた。

 ドロシーはユウヤを受け止めると、閃光魔法をデザストルの眼前に向かって放った。

 デザストルは目を瞑り、光が消えると目を開けてドロシー達の居た場所を見るとすでにいなくなっていた。

 しかし、龍壱だけが先ほどと同じ場所に立っていた。


『貴様は逃げないのか?』


 デザストルは唯一逃げないで刀を抜き構えている龍壱に視線を向けて問いかけた。


「わしが逃げたら、お主はあの子達を殺しに行くじゃろ。あの子たちが逃げられる間時間を稼ぐ必要があるからの」

『貴様が私を足止めすると言うのか?』

「そうじゃ」

『あの小僧を私が見逃したところで、いずれに殺される。それでも、自らを犠牲にあの小僧を救うのか?』

「当たり前じゃろ、わしの短い命で弟子の命が救えるのなら、それでよい」

『近くにいたとは言え、私を引き寄せたのだぞ。またすぐに強力な魔物に遭遇して殺さるのがおちだ。それでもいいのか?』

「いいに決まっておる。あいつは、ユウヤは、いずれ天災にさえ届く存在になる。だからこそ、今ここでお前に殺されるわけにはいかんのじゃ」


 龍壱は力強く宣言しながら刀を構えて臨戦態勢に入ると、デザストルは何かを少し考えて龍壱に宣言した。


『よかろう。そこまで言うのなら、貴様が私に傷をつけることが出来たら他の者達は見逃そう。出来なければ、貴様を殺した後間に合う範囲にいた場合殺そう』

「傷つけさえすればいいんじゃの」

『ああ、私の名に懸けて約束しよう』

「ならば、多少の希望はあるわけか」


 龍壱は深呼吸して息を整えると、デザストルを睨み攻める体制に入った。


「行くぞ!」


 龍壱は全力で走りデザストルの周りを走り回り、隙を見つけると敵に近づき刀で斬りかかるが、金属がぶつかる音が響くだけでかすり傷さえつかなかった。


「!?」


 龍壱は傷をつけられなかったことに気づくと、離れてデザストルの攻撃を喰らわないように走り周り隙を見つけると、刀に魔力を纏わせてもう一度斬りかかるが同じ結果に終わった。


『無駄だ。私の体を傷つけることは貴様には出来ん』


 龍壱はデザストルの鱗に覆われていない場所を狙って斬りかかるが、音は響かなかったが傷はつけられなかった。

 デザストルはまるで遊んでいるかのように、龍壱を本気で殺す気が無いかのように腕で斬りかかって来る龍壱を攻撃したり、尻尾って薙ぎ払ったりする程度でまるで相手にしていない。

 デザストルが余裕そうにしていると、龍壱の動きが急激に速くなった。

 急に速くなった龍壱にデザストルが驚いていると、横顔を斬り付けられ衝撃でバランスを崩して倒れた。

 しかし、それでもまだ傷はつけられていない。


『なぜ急に力が……』


 デザストルは急激に力が上がった龍壱に不思議に思い、龍壱を見ると動きを止めて吐血していた。

 それを見て龍壱が何をしたのかデザストルは理解した。


『貴様、無理やり魔力を生成して、無謀な強化をしているのか?』

「言っただろう。わしの命で弟子の命が救えるのなら、それでよいと」


 龍壱は自分の魔力により体を内側から引き裂かれる激痛に、耐えながらデザストルに返した。


(ユウヤは、こんな痛みを子供のころから受けていたのか。生きているのが奇跡ということか)


 龍壱はユウヤのことを考えながらも、激痛にこらえて刀を構え直しまた走り出した。


(まだ、足りんの。もっと、もっと魔力がいる。体をズタズタに引き裂かれても、少しでも傷つければ、わしの勝ちなんじゃ)


 龍壱は激痛にこらえながらさらに魔力の生成を始めた。

 生成器官の限界を超える魔力量を生成し、制御出来る魔力を大幅に超えてなお魔力を増やし身体強化と刀を強化し続けた。

 しばらくの間、強化し続けてようやくデザストルの鱗に一ミリにも満たない小さな切り傷を入れた。

 そこで龍壱は無理がたたり大量の血を吐き出して動きを止めた。

 そんな龍壱にデザストルは腕で軽く薙ぎ払って吹き飛ばした。


「これで、約束は果たして貰うぞ」

『何を言っている。鱗は私にとって鎧のようなもの、私が傷ついたわけではない』

「なるほど、鱗ではだめという訳か」


 龍壱は刀で体を支えながら立ち上がり、刀を構え直した。


「もう体が限界か、次の一太刀にわしの全身全霊すべての力を込めよう」


 龍壱は呟いた後意識を集中し、先ほどまでよりさらに大量の魔力を生成した。

 先ほどまで生成した魔力と合わせて龍壱はすでにユウヤ以上の魔力を纏っている。

 デザストルは龍壱の攻撃を受け止めようと、魔力を少し纏い防御力を少し上げて防御の体制に入り、龍壱の様子を伺った。

 デザストルが龍壱を見ていると、突然龍壱が消えた。

 龍壱はデザストルが瞬きで瞼が閉じた瞬間に全速力で動き、デザストルの肩を斬り付けた。

 龍壱の攻撃でデザストルの肩はきれいに斬られた。

 斬り付けた後龍壱は何の受け身も取らずに地面に落ち、無理な魔力強化で粉々に砕け散った。


『よくやったっと言っておこう。約束通り他の者は見逃そう』

「……」


 龍壱はデザストルの言葉に返す力もなく、口が少し動くだけで声になっていない。


『もう、喋る力も無いか。私はもう行く、お主はもうじき死ぬだろうしな』


 デザストルはそれだけ言うと、翼を広げて飛んで行った。

 それを見て龍壱は安心したように目を瞑った。


(ユウヤ、お前はわしの最高の弟子じゃ。いつの日か勇者さえ超えるほど強くなると信じているぞ)


 龍壱は遠くからわずかに聞こえるドロシーの声を聞きながら、静かに眠るように息を引き取った。

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