第25話 魔法の勉強

 ユウヤが森で修行している間、宿でレティシアはドロシーに魔導書を渡されていた。


「あの、これは?」

「極大魔法の魔導書よ。レティシアも極大魔法を使えるようになった方がいいからね」

「分かりました」

「夕方までは私は魔法の勉強ね。分からないことがあれば私が教えるわ」

「分かりました」


 レティシアはドロシーに渡された魔導書をじっくりと読み始めた。

 夕方にドロシーが話しかけるまで、宿の椅子に座り飲まず食わずで魔導書を読み続けていた。


「レティシア、そろそろ魔法の修行に入るわよ」

「……」

「……レティシア、聞こえてる?」

「……」


 ドロシーが何度か呼び掛けてもまるで反応しないレティシアに、ドロシーは肩を軽く叩いたりなどするが全く反応が無かった。


「……すごい集中力ね。けど、これだと魔法の修行に入れないんだけど」


 レティシアの集中力にドロシーは感心したが、魔法の修行に移れないため困り対処法を考え、少しすると一つの方法を思いつき悪戯っぽく笑いレティシアの座る椅子の後ろに回り耳元に近づいて呟いた。


「ユウヤ君が好きって言ってたわよ」

「!?」


 ドロシーの言葉にレティシアは驚いて急に立ち上がり慌てて周りを見回し始めた。

 レティシアはある程度見回すと、ドロシーが面白そうな顔をして立っているのを見て冷静になり、ドロシーの嘘であることを悟るとジト目でドロシーを見ながら文句を言った。


「なんですか、急に変なこと言ったりして」

「だって、修行の時間になって声かけても反応しなかったんだもの」

「え!?もう、そんな時間ですか?」

「ええ、もう日が暮れ始めてるわよ」

「すいません。気づきませんでした」


 窓を指さしながら言うドロシーにつられて、窓を見て夕日の光が差し込んでいることを確認してレティシアは慌ててドロシーに頭を下げて謝った。


「いいわよ。魔導書を真剣に読んでたみたいだし」

「お借りした魔導書が興味深くて、読みふけってしまいました」

「そう、どれくらい読めたの?」

「大体九割読み終わりました」

「九割も?内容はしっかりと理解出来てる?」

「はい、読んだ範囲は理解できるようにじっくり読んだので大丈夫です」

「そう」


 ドロシーはレティシアの読んだ範囲を聞いて驚いて少し目を細めてレティシアの顔を見た後、すぐにいつも通りに戻り話し始めた。


「すごいわね。じゃあ、明日は極大魔法の練習をしましょうか」

「はい。分かりました」

「じゃあ、今日は仕事の時と同じように高速で魔法を使う訓練をしましょうか」

「はい」


 ドロシーに言われた通りに二人は椅子に座り、レティシアは頭に魔力を多めに集中させて魔力障壁を張っては、ドロシーのアドバイスを聞いてまた張るの繰り返しを始めた。

 魔力障壁を一万回超えたあたりでレティシアは汗を掻き息を荒くし始めた。

 さらに、数千回魔力障壁を張ると滝のような汗を掻き、息もかなり荒くなって肩を上下させていた。


「はい。じゃあ、今日はここまでにしましょう」

「わ、わかりました」


 ドロシーの終了の言葉にレティシアは苦しそうに返事をした。

 そんなレティシアにドロシーは収納からタオルを取り出して手渡した。


「取り合えず軽く汗を拭いて、少し休んでおきなさい」

「はい」

「ある程度回復したら、お風呂に行くわよ」

「一緒にですか?」

「そんなに私とお風呂入るの嫌なの?」


 レティシアの警戒するような目にドロシーは少し大きな声で問い返した。

 そんなドロシーにレティシアは顔を逸らしてチラチラとドロシーを見ながら返した。


「嫌というわけではありませんが、胸を突然触られたりするのがちょっと」

「過度なスキンシップが嫌なの?しなかったらいいの?」

「はい」

「そんなにはっきり言わなくても……」


 あまりにもはっきりと言うレティシアにドロシーは俯いて落ち込んだ。


「女同士とはいえ、いきなり後ろから胸やお尻を触られたら身の危険を感じますので」

「そんなこと言って、ユウヤ君だったら文句言わないんでしょ」

「!?ユウヤはそんなことしません!」


 ドロシーの言葉を聞いて場面を想像したのか、レティシアは顔を赤くして大きな声で強く否定した。

 そんなレティシアを面白そうな顔でドロシーが見ていると、ドアがノックされユウヤの声が聞こえてきた。


「俺がどうかしたのか?」

「!?」

「あら、ユウヤ君達帰って来たみたいね」


 ユウヤの声を聞いてレティシアは顔を赤くして慌ててどうしようか戸惑っていると、ドロシーが部屋のドアを開けてユウヤ達を中に入れた。

 レティシアはそんなドロシーを見て目を細めて睨みつけ文句を言いたそうな顔でじっと見つめた。

 しかし、ドロシーはそんなレティシアに悪戯っぽく笑って返したため、レティシアはさらに文句を言いたそうな顔でドロシーを睨んだ。


「で、俺がどうしたんだ?」

「な、なんでもない!」

「けど、さっき俺の名前言って無かったか?」

「ちょっと名前が出ただけだから、本当に何でもないから」

「そ、そうか」


 いつもより大きな声ではっきりと否定するレティシアにユウヤは驚きながら頷いた。

 そんなレティシアを見てドロシーは面白いことを思いついたようで、悪戯っぽく笑ってユウヤに近づいた。

 ドロシーが何か企んでいることに気づいた龍壱は呆れた顔をし、見守ることにして何も言わずに立ったまま部屋の角で様子を伺った。


「ユウヤ君、レティシアと一緒にお風呂入りたい?」

「何言ってるんですか?」

「いきなり何言ってるんですか!?」


 ドロシーの質問にユウヤとレティシアはほとんど同じ言葉で返したが、声の大きさや言い方がかなり違った。

 ユウヤは呆れたよな顔でドロシーを見ながら平然と返したが、レティシアは顔を少し赤くして怒鳴るように慌ててユウヤとドロシーの間に割って入った。


「いや、ユウヤ君は女の子と一緒にお風呂に入りたい年頃かなって」

「そういうこと考えたこと無いんでよくわからないです」

「そう」


 平然と答えるユウヤにドロシーはつまらなさそうに肩を竦めた。

 レティシアはそんなユウヤに安心したような残念なような曖昧な顔で何も言わずにユウヤから目を逸らした。

 そんな三人を見て龍壱が近づいてきて話しかけてきた。


「まあ、一緒に風呂に入るかはともかく、風呂に入りに行くぞ。二人もどうじゃ、レティシアもかなり汗を掻いているようじゃしな」

「それもそうね。じゃあ、行きましょうか。レティシア」

「お風呂ってどこにあるんですか?」

「この宿から少しのところに風呂屋がある。男女は別じゃから安心せい」

「わかりました」

「ほら、ユウヤも行くぞ」

「はーい」


 ユウヤは龍壱と一緒に部屋から出て行き、レティシアも先ほどのことでもやもやしながらも頭を振って考えをきりユウヤ達の後を追った。


「この先どうなることやら」


 ドロシーはユウヤ達の後を追っていくレティシアを見て初々しいなと思いながら、三人の後を追った。

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