第7話

 龍臣は隕石落下の後に、力丸達工場地帯の派遣社員の例に漏れず会社自体が消滅してしまい、すぐさまハローワークに出向いて会社都合の失業保険の手続きをした。


 会社の倒産などの会社都合退職の場合は、自己都合退職とは違って待機期間はなく、直ぐに失業保険が貰えた。


 ここまでは良かったのだが、龍臣の致命的な欠点とも言える滑舌が悪く小声の口下手が災いしてしまい、企業はおろか派遣会社での面接は全て落ちてしまう。


 失業保険が切れる間際に、暇つぶしでやっていたブログに毎日の日記と好きな飲食店やアニメ、漫画、ゲーム、ミュージシャンの紹介を書いていたのだが、それのアクセス数が爆発的に伸びており、広告収入が軽く見られない程になっていたのに気がつき、大物ブロガーへと転身を果たした。


 25歳の時に始めたクイッターでは、瞬く間にフォロワーが3000人を突破しており、ブログの宣伝を行ったことで更に広告収入が増えて、月収が30万以上貰えることとなった。


「ふぅん、お前そんな事して、金稼いでるんだな。……やるじゃねぇか!」


「大したことはねぇよ、コミュ障の道楽だ、その証拠に俺はまだ無職だ、単発派遣とかしたけれども直ぐにクビになるんだよ、この口のせいでな……」


 龍臣は悲しそうな表情を浮かべながら、滑舌が悪い言葉で力丸にそう話す。


(まぁ、確かにこいつは口下手だ、だが、俺からしてみたらそこまで酷くはないのだが、それでも雇う側からしてみたら嫌かもしれない、そう考えると真っ当な暮らしをしている俺は幸せなのかもしれない……)


 慰霊碑から少し離れた場所にある喫茶店、『カメダ珈琲』で、彼等は今までのことをポツリポツリと話す。


「……なぁ、お前そんな酷いブラックなところにいるのならば、転職はしないのか?」


「いや、しようと思うのだがな、今の勤め先の上司は周りに顔が効くんだよ。妨害されて別の街に逃げた人を何人も見ているんだよ……」


 力丸は悲しい表情を浮かべて龍臣に呟く。


「そっか……」


「しかしこの珈琲うまいな、お代わりするわ」


「ここ、最近で始めた珈琲屋で、人気なんだよ」


「そうなんだな、お代わりしよ」


 力丸は呼び出しボタンを押す。


 店内には、彼等がいる喫煙席は禁煙の風潮からか誰も人がおらず、2人だけとなっている。


 自動ドアが開き、長身で細身の男性店員が入ってくる。


「いらっしゃいませ、オーダーは何になさいますか?」


「あぁ、アイスコーヒーのラージで……ん?」


 力丸は、その店員の顔をまじまじと見つめる。


「あの、どうなさい……え? お前、ひょっとして……」


「吾郎、か……?」


「力丸、それと、龍臣、か……?」


「久しぶりだな! 何年振りだ!?」


「久しぶりだな! ……悪いけれども、俺今仕事してるんだ、俺の携帯アドレスをここに書くからな、あとで落ち合おう、仕事は夜の8時に終わるんだよ、それまで別の店で時間潰していてくれ」


 吾郎は紙に自分のアドレスを書き、そっと彼等の方へと置く。


「アイスコーヒーのラージですね、少々お待ちください」


「はい、ではまた」


 力丸は吾郎に手を振り、吾郎は一礼をして厨房の方へと足を進めていった。


「あいつと会えるだなんて、今日はなんていい日なんだ……?」


「てかな、あいつ店長っぽいぞ、被ってる帽子が店長の緑色の線が入っていたからな」


「ふぇー、あいつが店長か。やるなぁ」


(こいつらに比べて俺は、底辺で燻っているしがない建築作業員だ、一生俺は燻るのか? 嫌だ……)


 力丸は溜息をつき、たばこに火をつける。


 ♪


 吾郎が彼等との待ち合わせに指定した場所は、M駅側の『フォレスト』というバーである。


『フォレスト』店内はジャズバーになっており、薄暗い店内にジャズの生演奏が流れて、料金は良心的な値段であり、普段安い居酒屋で一杯飲むのが関の山である力丸はこの店が一発で気に入ってしまった。


 客層はサラリーマンや学生が多く、力丸よりも収入が多く貰えていそうな面子に、力丸は劣等感を感じている。


 力丸の隣でジーマを飲んでいる龍臣は、最新式のタブレットで自身のブログを更新している。


(副業、か……金さえあればこんな状況抜け出せるのになあ……)


 ドアが開き、ハンチングを被った、赤地の龍と虎の模様が入ったスカジャンを着た細身の長身の男が店内に入ってきて、力丸達の元へと足を進める。


「久しぶりだな、吾郎、か……?」


「あぁ、久し振りだな。何年振りだ?」


 吾郎はハンチングを取り、店員を呼び止めてジーマをオーダーする。


「15年振りぐらいだな……」


 龍臣はブログの更新が終わったのか、タブレットを置き、早口で吾郎にそう言ってジーマを口に運ぶ。


「なぁ、お前今まで何をしていたんだ?」


 力丸は吾郎にそう尋ね、飲みかけのコロナビールを口に運ぶ。


「隕石落ちた後にな、一旦地元に帰ったんだ。工場派遣やりながら結婚して離婚したんだ。カミさんと別れた後にたまたまカメダ珈琲の店長募集があってな、受けたら受かって、ここでやらないかと誘われてここに来たんだ、もう5年ぐらい前だな。安仁屋さんのラーメン屋さんには良く食べに行くけどな」


「……」


「お前らは……?」


「俺は地元帰って職点々として建築の仕事に就いてる、こいつは有名なブロガーだ、たっちゃん徒然っていうサイトをやってるんだよ」


「ほぅ……あぁ、知ってるわ、よく見てるがお前だったんだな」


「あぁ……」


 ガタン、という音が聴こえて彼等は後ろを振り返る。


 そこには、ジャズの歌手の手を取ろうとして、周りと揉めている男性二人組がいる。


「やめて!」


「いいじゃねぇか、俺らと遊ぼうぜ!」


「なあ、いいべ!」


「やめて下さいよ、警察呼びますよ!」


「上等だべ、呼べや! 俺ら何も守るもの無いからな!」


「隕石落ちた時に家族みんな死んだからな!」


 その男性二人組は、薄暗くてわからないのだが、金髪で年齢は30代後半の肌艶をしている。


「やめろやてめえら! 嫌がってんだろ!?」


 力丸は酒の勢いや日頃のストレスというのもあるのだが、勢いで彼等の元へと向かう。


「やめろよ」


 龍臣は情けない声で力丸を止める。


「仕方ねぇ、俺達も行くか」


 吾郎は立ち上がり、力丸の元へと足を進める。


「分かったよ、仕方ねぇ……」


 龍臣はタブレットを壊さないようにカバンの中へとしまい込み、力丸の元へと足を進める。


「おいなんだテメェ!?」


「泣かすぞ!?」


 先程の2人組は力丸の胸ぐらを掴む。


「テメェいい年こいた親父だろ!? そんな、高校生ぐらいの女の子に手を出してんじゃねぇよ! 犯罪だろうが!」


「なんだとテメェ! てめえもヤリてぇんだろ!?」


「……なぁ、おいアンタ、音無兄弟か!?」


 絶滅危惧種である、アフロヘアーの男とパンチパーマの男に力丸は見覚えがある。


「あ!? テメェ何故俺の名前知ってるんだ!?」


「……兄貴、この人、あのライブの……ほら、底辺ロッカーズの人らだ!」


 二人組の片方の男は、何かを思い出したような顔をして力丸達を見やる。


「……あ、力丸さん、か……?」


「そうだよ、久し振りだな。てかなんだアンタら、どんだけ酒癖が悪いんだよ? この子多分高校生だろ?」


 力丸は、音無達にナンパされて恐怖の表情を浮かべる歌手の女の子を見やり、音無にそう言い放つ。


「あ、いや、すいませんでした……」


「それと、龍臣、そんな物騒なものは捨てろ、それスタンガンだろ?」


「あぁ、護身用にな……」


 龍臣は酒が入ってさらに滑舌が悪くなった声で、スタンガンをカバンの中にしまい込む。


「あのう、お取り込み中申し訳ありませんが……」


 店長らしき、頼りない中年男性は彼等にそう言ってくる。


「今日のところはお引取りを願いますか? 周りのお客様の迷惑なので……それと、道明寺、お前は今日限りでこなくていい、お前他の客にナンパされるのは何回めだ? もう来なくていいからな」


「分かりました、ご迷惑をおかけしました……」


 吾郎はブランド物の財布から2万円を取り出して店長に手渡して、客の好奇の眼差しを一身に背中に受けて、店を立ち去っていく。


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底辺ロッカーズ @zero52

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