第6話

 M町まで電車で2時間半、そのうち各駅停車が1時間ほどあり、力丸は暇つぶしにM町の隕石が落ちた後のことが動画に出てはいないかどうかとダメ元でチェックをするのだが、出てくる動画は被災地を忘れないでくれだとか、町興しだとかドキュメンタリーの動画しか出てこない。


 試しに自分達のバンドのことを検索するのだが、彼等が活動していた時期はネット黎明期だった事もあるのだが、爆ちゃんねるという匿名掲示板には、『一晩で観客全員が失神したライブがM町であった、なんのバンドかは忘れた』と断片的な事しか書いていない。


(まぁ仕方ねぇな、俺らがいた頃はまだネット民とかほとんどいなかったしな……でもまぁ、ちょっと嬉しいかもな)


 力丸は缶コーヒーを口に運び、後2駅で着くであろうM町近辺の光景を見やる。


 隕石落下で街中が壊滅状態になったM町近辺の駅は、15年もの年月で、普通の駅へと変貌を遂げているのが力丸の目には飛び込んできた。


『M駅〜』


 力丸は、昼間ということもあってかそんなに人が乗っていない電車から降りて、長時間の乗車で軽く疲れてふらふらとした足取りで駅に降り立つ。


 駅は綺麗に整備がされており、復興めざましく、単線だったが近場にはショッピングモールがあり、力丸は感動した表情で、片道1800円をタスポで支払い、駅から出る。


(確かにここには俺の青春があったんだ……!)


 力丸は、街中をぶらつくことに決めた、自分が確かにここで、少しだけだが青春の限りを尽くして暮らしていたことを思い出しながら。


 ☆


 彼等がライブをした店、『グレアー』は、別の店になっているのだが、名前は同じであるのに力丸は妙な懐古感に襲われる。


 その店はラーメン屋さんになっており、行列ができているのだが、力丸は小腹が空いたのか、その店で食事をすることに決めた。


(へぇ、この店美味いらしいんだな……)


 ネットの食いログには、5つ星で美味いと書いてあり、力丸は楽しみな気持ちに襲われる。


 待つこと20分して、力丸は店内に入る。


「いらっしゃいませ、食券はあちらでご購入ください」


 丁寧な口調の店員にそう言われて、力丸は食券を購入し、カウンターの席へと座る。


「この味噌ラーメンの大盛りね」


「あいよ。……ん?あんた何処かで……?」


 その、タオルを巻いた店主らしき中年の男は力丸を見て驚いた表情を浮かべる。


「……!? 安仁屋さんですか!? 覚えてますかね、俺……」


「あぁ、覚えてるよ、底辺ロッカーズさんの力丸君だろ?」


「ええ、お久しぶりです」


「なんだ久しぶりだねぇ、10年ぶりぐらいか」


 安仁屋は慣れた手つきで、料理をしながら力丸と会話を行う。


「ええ、落ち着いたので来たんですよ、ライブハウスは閉店しちゃったんすか?」


「うん、隕石落ちてから全壊しちゃってねぇ、ボランティアでラーメン作ったら大受けしたからこの店を始めたんだよ」


「そうですか……」


 力丸の記憶の中にある安仁屋は、中肉中背で真冬なのにアロハシャツを着る根性があり、パーマをかけていた。


 あの日から15年が過ぎて、そこにはイケメンではなく加齢により太り始め、顔に苦労で出来た皺のある中年男性しかいない。


「あの時のメンバーとは会っているのかい?」


「いやぁ、全然会ってないっすね、携帯が壊れちゃってデータ全部吹っ飛んだんすよ。今のようにSIMとか無かったしね、参りましたね」


「そっかぁ、まぁ俺も会ってないけどね、他の人とはね。工場地帯の工場も全て無くなっちゃったしね。……茂樹君の話は聞いてるかい?」


 安仁屋はラーメンを力丸の席に出す。


「いや、何も……てかあいつと会ったんすか?」


「いや、会ってないんだ。……隕石が落ちた後に言ってごらん、これ食べたら。そこで全てがわかると思うからね」


 安仁屋は複雑な表情を浮かべている。


「ええ、そうします」


 力丸は割り箸を割り、ラーメンに口をつける。


「うめぇ!」


 安仁屋はニヤリと笑い、他の客がオーダーしたメニューをアルバイトの店員と共に作り上げていく。


 ♪♪♪


 M町の中心部にある工場地帯跡には、大きな穴が開けられた状態のままで残っており、慰霊碑があり、そこには隕石が落ちて亡くなった人達の名前が刻まれている。


 その中にある、茂樹の名前を力丸は見て絶望でその場に立ち尽くす。


(な!? ……茂樹!)


 かつて20代前半の、ほんのごく僅かながら青春を駆け抜けた男は、隕石などの自然災害に為すすべもなく散ったーー


 力丸は花束が置かれた慰霊碑の前にしゃがみ込み、そっと、吸いかけの煙草を置く。


(……茂樹、お前が好きだった煙草だ。……あの世でライブをやっていてくれ、俺はまだこの世に未練はあるから当分お前の元へと行けないからな……)


 力丸の隣から手が伸びて、そっと花束が置かれる。


「茂樹……」


 聞き覚えのある早口の声に、力丸は思わず後ろを振り返る。


「!?」


 そこには、いきなり振り向かれて驚いてのけぞっている挙動不審気味の男が立っている。


 分厚い眼鏡をかけ、腹はボコンと出て、秋葉原にいるオタク御用達のアニメキャラの書かれたTシャツを着ている男ーー


「……お前、龍臣、か……?」


「……力丸、か?」


「おい久しぶりだな! お前生きてたんだな!」


「お前こそ!」


 彼等は思わず抱きつく。


 ……実に15年振りの再会であった。


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