第4話

 退屈な日々でも、誰しもが必ず一つや二つは面白い事があるという。


 工場という閉鎖的で殺伐とした環境にいる力丸にとって、茂樹との出会いは刺激に満ち溢れたもの。


 学生の時に一度諦めた、ミュージシャンになるという夢に火がついた力丸の肌艶や目つきは死んだ魚の目から、野心に満ち溢れる革命家のようなギラついた目つきに変わっている。


(後少しで俺の夢が叶うんだ……!)


 その日力丸と龍臣、吾郎は夜勤であり、一足先に茂樹は工場にいる。


 力丸は、前日に練習した心地よい疲れを体に感じながら工場までの道のりを自転車を走らせて向かう。


(何だありゃあ?)


 力丸の視界には、黒い物体が勤め先の工場の方へと落ちて行くのが見える。


 刹那、力丸の目の前が黒く染まり、力丸は後ろに吹っ飛ばされた。


 ♪


 宇宙空間には、無数の隕石が飛び交い、その中の幾つかが地球に落ちると言われている。


 2002年6月某日、科学者達の予言通りに、『コルセア』という直径100メートル程の隕石は1億分の1の確率で地球に落下した。


 落下した場所は、日本、都内A町ーー力丸と茂樹達が住んでいる町である。


「う、うーん……痛てて……!」


 力丸は全身に感じる痛みを堪えながら、身体を無理矢理にして起こす。


 目の前に広がるのは、瓦礫の山ーー


 馬鹿の一つ覚えのようにバブルの時に建てられた古いビルは崩壊、破損した車からは火の手が上がり、あちこちに怪我人で溢れかえっている。


(何があったんだ……?)


 力丸は慌てて携帯電話を取り出す。


 激しい衝撃があったのか、液晶画面は割れており、圏外表示が出ている。


「ひぇっ……」


 腹から腸がはみ出ている生存者を見て、力丸は思わず吐きそうになる。


「誰か助けてくれー!」


「子供がいるんだー!」


 崩壊したビルに人が集まり、中にいる家族を助けてくれと、周囲に頼み込む。


(中に人がいるのか? 助けなければ……)


 力丸はビルの方へと顔を向けるのだが、身体中に走る激痛に身を捩り足が進まない。


 ボン、という音がして、力丸は激痛のする首を後ろに回すと、そこには火達磨になった車があり、中にいる人は焼け焦げて、ただの黒い塊にしか見えない。


「ダメだ……」


 力丸の視界が歪み、地面にドサリ、と崩れ落ちる。


 ♪


 その日、A町は落下した隕石により、殆どが壊滅状態となり、幸いにして原発や火力発電所は近隣になく、大惨事は免れたが、町としての機能は暫くは果たせなくなってしまった。


 力丸が務めていた工場は跡形もなく崩壊、隕石が落ちた後だけが残っている。


 交通機関や通信機関が回復するまでにはかなりの時間を要し、町の中には怪我人で溢れかえった。


 その怪我人の中の一人に、力丸がいる。


 力丸は5箇所骨折しており、折れた肋が肺を圧迫していて、意識不明の重体から回復するまで1ヶ月を要した。


 当然、会社は倒産して、仲間の消息がつかめなくなり、メジャーデビューの話はオジャン、プータローとなった力丸は実家に帰らざるを得なくなってしまった。


 ……それから、16年の月日が流れた。

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