第97話 ドラマ

 結局、熟慮の末、はるは、シャルロット役を引き受けた。


「ただいまー」

「おかえり」

 今日は、日高がはるを出迎えた。

「ごめんね、今すぐご飯作るから」

「いいよ。お弁当買って来たから、一緒に食べよ」

「えっ、日高が買って来たの?」

「そう。お店ん中、大騒ぎしてたけどね」

 そう言って、日高は笑った。

「日高、ありがと…」

「後で足、マッサージしてあげるよ。シャルロットは体力勝負だから。お稽古、キツかったでしょ」

(……どうしよう)

 幸せすぎて泣いちゃうかもしれない。


 食事が済んだ後、しばらくして日高は本当に、はるをマッサージしてあげて。

 そのとき、テレビでは、日高と姫花の長めのラブシーンが映し出されていた。

『やっぱり、あなたに会いたくて来ちゃった』

 姫花の言葉に。

『もう、全て終わったことだから』

 日高は、姫花に背を向けた。

 でも。

『ごめん、やっぱり、嘘』

 そう言って、日高は振り返って、姫花を抱きしめた。

「何、結局、くっつくんじゃーん」

 マッサージを受けながら、はるがテレビに向かってツッコんで。

 日高は、声をたてて笑っていた。

 でも。

「どうせ、キスするんでしょ、いつもの。ねー、いつもの長いやつ」

 って、はるが言い出すと。

「もー、うるさいなー」

 って、日高は、はるの体を反転させて仰向けにさせた。

「あ……」

 日高と目が合った。

「何、何? 姫花にしてる長いやつ? してほしいわけ?」

「いや…、だから……、ドラマの話で…」

 はるの言葉の終わりを待たずに。

 日高は、はるの両手に指をからませて。

 唇を落としていった。

 テレビと同じシーンを。

 全く同じシーンを再現させて。


 キスの嵐のあと。

「あなただけを愛しているの」

 ドラマの中の日高も。

 はるの目の前の日高も。

 そう言って。

 恋人を見つめた。

 ドラマの中の姫花と。

 日高の前のはるは。

 小さな声で。

「私も」

 って、呟いた。

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