第五章

第96話 シャルロット

(やっぱり、大好き)

 日高の寝顔を見て、はるは思わずそんな言葉を呟いていた。


 自分の心も、体も、十代の終わりに気づいていて、どうかすると、はる自身を置いてきぼりにして、大人になっていくようだった。

(だけど)

 日高は、ここまで待ってくれた。

 私が、大人になるまで。

 ずっと大事に、大切に、守り愛してくれた。

 一月になれば。

 私は二十歳はたちになる。

 そのとき。

 きっと新しい何かがはじまって、何かが終わるのかもしれない。

 でも。

 たぶん大丈夫。

 だって、私の横には、必ず日高が居てくれるから。


(ご飯、作らなきゃ)

 起き上がろうとしたはるの体を、

「まだいいじゃん」

 そう言って、日高が後ろから抱きすくめた。

「あっ」

 驚いて振り返ろうとしたはるに。

「いいの。このままで聞いて。シャルロットのオファー、前向きに考えてほしいの」

 はるの背に、頰をつけたまま、日高は語りかけた。

「私の大好きな役だから、はるに、二代目をやってほしいの」

「でも…。みんなきっと、日高と比べるよ」

「初めはそうだと思う。でも、きっと、はるなら、はるのシャルロットが出来ると思うの。だから、ゆっくり考えて」

「うん」

 小さくはるは頷いた。

 スケジュール等の都合で、日高の好んで演じていたシャルロットを、日高が降り、同じ事務所のはるに、正式にオファーが来ていた。

 はるは、日高への遠慮と、重要な役の責任の重さで、引き受ける事をまだ躊躇していたのだった。


「はーるちゃん」

 日高は、腕を引き抜くと、はるを自分の方へ向き直させた。

 そして、自分の腕の中へ引き寄せて抱きしめると。

 足を、抱えるようにからめて。

 腕と足で、はるの全てを抱きしめた。

「ねー、本当に、そろそろ起きなきゃ」

 はるが、日高を見つめて言うと。

「………?」

 小首をかしげて、日高はキョトンとした。

(シャルロット…⁉︎)

 日高は、シャルロットになっていて。

 日本語がわからないシャルロットは。

 その後も。

 なかなか、はるを離してくれなかった。

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