第74話 大好きすぎて

 -奥プロ事務所-


「ただいまー」

「わっ、はる。可愛いじゃないか」

 社長は、はるの側に歩み寄った。

「また短くしたのか。に、しても焼いたなァ」

「思い切って小麦色にしちゃおうって」

 再びショートにして、明るめの茶色の髪と。

 小麦色に焼いた肌と。

「わー、可愛いなあ」

 関君は手を叩いて、はるに駆け寄った。

「後、難関は、日高あいつだな」

「可愛いって言ってくれますよ」

 関君が言った。

「ちょっとねー、怖いんだよね、反応が」

「まあ、なあ。行きと帰りで全然違うからなあ」

 そうこうするうち、太一にともなわれて、日高が帰って来た。

「ただいま」

「あっ、日高」

「あ……はる」

「日高、お帰りー。で、私も、ただいまー」

「………」

 日高は、ちょっとはるを見つめて。

 スッと、視線をそらした。

「ねー、これ、やっぱ、ダメ?」

 はるが、日高の顔を覗き込んだ。

「いや、すごくいいと思うよ」

「じゃあ、何で私のこと見ないの?」

「……見れないの」

「可愛すぎて見れないんだって」

 太一が言った。

「うっそ、本当に?」

 日高は、ふいっと、横を向いて。

 事務所内は笑いに包まれた。



「ねー、日高さあー、本っ当に見ないね、私のこと」

 ソファに座って、日高はテレビを見ていたけど。

「だから、太一君が言ってたじゃん。可愛すぎて見れないって」

「そんなの、ある?」

 歩み寄って、日高の横に座った。

「本当は似合わないとか?」

「違う」

 日高は首を振った。

「どうしたらいいの?」

 って、はるが小さく呟いた。

 その声に。

 ちょっと、日高は振り返った。

「本当に可愛いって思ってるよ。でも、今日だけ、ちょっとカンベンして。大好きな人がもっと大好きになったら、心が追いつかないんだよ」

 はるの目を少し見て、そう言った。

「本当にぃー」

 って。

 はるが抱きついていったら。

 瞳を伏せて。

 そっと抱きしめた。

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