第69話 仲直り

「何?」

「はい。先代がクラシックがお好きで、時々テレビで御覧になっていましたけれど、その時、よくこう言ってらっしゃったんです。このピアニストは、とても美しく曲を奏でるんだけど、指の運びが独特なんだよなぁって」

「何ていう、ピアニストなの?」

「確か、桃山……桃山元明もとあき……とか」

「桃山?その人のレコードとか、残ってる?」

「探せば、おそらくは」

(はるちゃんの本名も、桃山だったわ、確か)

「ねえ、それ、持って来て。なるべく早くね」

「はい」

「また一つ、見つけちゃった」

 祥子は、手を組んで。

 肩をすくめて笑った。



 社長の計らいで、太一はそのまま帰宅し、関君が、はるたちをマンションまで送りとどけてくれる事になった。

 はると、日高の会話が途切れたときだった。

「ねえ、日高」

「ん」

「ごめんね」

「……」

「わざとじゃないんだけど……」

「もういいよ。私の為にピアノまで弾いてくれたしね」

 日高は笑った。

「でも、どうしてはる、ピアノ弾けたの?習ってたとか?」

「ううん。お父さんがピアノが好きで、弾き方少しだけ教わってたの」

「少しだけ?」

「そう、少しだけ」

「ふーん」

 それ以上、日高は何も聞かなかった。

「ねえ、今日は寒いね」

「温めてあげるよ」

「うち、戻って来てくれる?」

「うん」

 日高が頷いた。

「あ、でも、はるさ」

「何?」

「気づいてなかったみたいだけど、今日、スタジオにサキさんいたよ」

「うそ⁉︎」

「ホント。それ所じゃなかったから言わなかったけど」

「マジでー。超いじ悪いじゃーん」

「いじが悪いのは、はるでしょ。チョコ、私にだけくれないしさー」

「もう、いいって言ってたじゃん」

 その時。

「二人共、着きましたよ」

 って。

 関君が車を止めて、にっこり笑った。



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