第48話 ケンカのあと

 -奥プロ事務所-


「何、あいつ。超ムカつくんだけど」

 デスクから顔を上げて、

「はるよー。日高は、はると一緒に引っ越そうとしてたんだぞぉー」

 社長が言った。

「途中からそうかもって気づいたけど、何か、何の相談もなしに決められてたのが、許せなかったの」

 クッションを仰向けになっていじりながら、はるは言った。

「はるちゃん。日高ちゃんね、忙しくなって、はるちゃんのマンションに戻っても、二人で過ごす時間がないからって、都心にマンションを借りようとしてたんだよ」

 太一が言った。

「………それもちょっとわかったけど、日高の言い分だけで進んでいってるのが嫌だったんだもん。今のマンションから見る景色も大好きだし」

 はるの言葉に。

「まー、たまには離れてみるのもいいんじゃないか。お互い、一緒に居すぎると見えなくなるものもあるしな」

「そうそう。それにね、はるちゃん、偉かったよ。別れようとか、あんたなんか大嫌いって言わなかったんだよね」

 太一の言葉に、

「うん」

 はるは静かに頷いた。

「おう、偉いな、はる。あんたなんかと結婚しなきゃ良かった、とか。あんたと好きで結婚したんじゃない、とか。それを言っちゃあ、おしまいって言葉があるからな。別れてやるって思っただけなのと、実際口にするのとは違うからな。はるは偉いよ」

 社長は歩み寄って来て。

 はるの頭を撫でた。

「うん………」

(だって、まだ日高のことが好きなんだもん)

「じゃあ、そろそろ時間だから。関、いいか」

 -グスン-

 なぜか。

 三人のやりとりを聞いていた関君が、大号泣していて。

「ちょっとおー、別れてないからー。泣かないでよー」

 って。

 はるが駆け寄って。

 大きな大きな関君を抱きしめた。

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