第44話 まだ愛しているから

 はるは。

 日高に気づくと。

「日高!」

 そう言って。

 歩み寄って来た。

「どうしたの?」

「来ちゃった」

「ここ、秋田だよ。一人で来たの?」

「うん」

「どうして?」

「日高にフラれたくないから」

「…………」

「日高にフラれたくないから。日高と別れたくないから迎えに来たの。一緒に帰ろ」

 返答こたえる代わりに。

「手、出して」

 って、日高は言った。

 はるが右手を出すと、

「こっちも」

 そう言って、はるの両手を、日高は自分の両手で包み込んだ。

「温めてあげる」

 日高は微笑わらった。

 やがて、太一も合流した。



 新幹線の中で。

 太一が席を外すと。

「今度は秋田まで来ちゃったね」

 はるが笑った。

「はるは、ずるいよねー、何か」

「何で」

「つかめそうで、つかめない。でも、もう諦めかけると、飛び込んでくるの」

「そんな事ないよ。私と、私の周りの人たちは別だもん。私は日高しか見てないのに、周りが騒ぎすぎるだけ」

「副社長にはならないの?」

「それは、将来的な話だから。まだ先の事はわからないよ。教師にもなりたいしね」

「そっか」

「日高は?日高はずっと女優やるんだよね」

「それしか出来ないしね」

 日高の指を。

 はるは見つめた。

 太陽の指輪が輝いている。

 それを見ると。

 -まだ愛しているよ-

 って、言われている気がする。

 でも。

 いつもそれは、

 -まだ-

 って語りかけてきて。

 どうしようもなく。

 はるを不安にさせた。

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