第15話 いらだち

「何か、ムカつく」

 いつも。

 はるが悶絶しているソファで、日高が、一人むくれていた。

「しょうがないよ、これもお仕事だし。はるちゃん、新作のワンピース、着れなかったんだから」

 太一が、日高の前にコーヒーを置いた。

「でも、久しぶりに帰って来たのに」

「全然、話せなかったのか、はると」

 と、社長。

「うん、明日、ゆっくりって、はるの部屋も入らなかったのに」

「そっか。そりゃ、残念だったなあ」

「ジムなんて、うちから通えばいいじゃん」

「でも、はるちゃん、ちゃんと見とかないと。すぐ間食するから」

 と、太一。

「まあ、でも、うちがどうにかしなきゃいけないのを、ジムに通わせて、食事の管理までしてくれるっていうんだからなぁ、祥子さん」

(それが嫌だって言ってるのに)

 日高は、二人から視線をそらして、窓の外に目をやった。


 映画の役作りで少し体重を増やしていたはるだったが、思いのほか、体重が元に戻らず、新作のワンピースが入らなかったのだ。

 祥子は。

 -うちで預かります-

 そう、申し出て来ていた。

(ダメだ。全然、心の整理が出来ない)

 日高は立ち上がった。

「社長、ちょっと出てくる」

「三時までに戻れよ」

「はーい」

 日高は。

 気がつくと駆け出していた。







「連ちゃーん、めいちゃーん」

 日高は実家の鉄工所に入るなり、作業服姿の二人に抱きついていった。


「この間は、お役に立てずにすみませんでした」

 連ちゃんが謝ると、

「いいの。だって、はる、荷物も持たずに出てっちゃったんだもん。そもそも私が悪いんだし」

 日高は優しく笑った。

「ねえ、二人は、パーティーか何かで祥子さんに会ったことあったよね」

「あの、YOSHIMURAの社長さんですか?」

 連ちゃんが言った。

「そう。ねえ、正直なとこ、聞かせて。祥子さんは、はるのこと、どう思っていると思う?」

 日高の言葉に。

「本当のこと、言っていいですか」

 連ちゃんが。

 本気の顔で、そう告げた。

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