第14話 幕がおりて

 舞台が終わると、誰もいない中庭に。

 ぽつんと、はるは座っていた。


 そこへ。

「はる!」

 現れたのは、日高だった。

「来てくれたんだ」

「うん」

 日高は、はるの横に座った。

「関君、車で待ってるって」

「うん」

 はるは、日高を見ないまま。

「怒ってる?」

「どうして」

 目を上げて、はるは日高を見た。

「ごめんね、はる」

「どうして謝るの?」

「はるが帰って来てから、私、はるのこと、全然見てなかったよね。話すことも出来なかったし」

「……………」

「でも、避けるとか、そういうんじゃなかったの。だけど、はるにはそんなの、全然わからないよね」

「日高は、まだ私のこと好き?」

 ふいに、はるは、そう言った。

「大好きに決まってるじゃん。世界中の誰よりも大好きだよ」

「なら、よかった」

 はるは、小さく頷いて。

「関君から、いろいろ聞いた。言葉って、大事なんだね。聞いてなかったら、また祥子さんに甘えてた」

「祥子さんの所に行こうとしてたの?」

「………たぶん」


 はるは、俯いて。

「でも、好きだから相手の顔が見れないこともあるよね。喋れなくなっちゃうこともあるし………。今の私もそうなの。久しぶりに日高に会ったら、うまく喋れないし、日高の顔をまともに見れないもん」

 はるの言葉に。

「はるぅ」

 日高は、はるを横から抱きしめた。

 そして。

「ねえ、はるちゃん、一緒に帰ろ」

 はるは。

「うん」

 小さく頷いた。

「はるの香りがするー」

 日高は。

 しばらくそのまま、はるに顔をうずめて。

「はるー」

 って。

 はるの名前を呼び続けた。

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