第5話 守ってあげる
はるが、瞳を閉じた、そのとき。
-ぴと-
日高が、はるの背中に体を寄せてきた。
「起きてたの⁈」
「起きてたよ」
はるの背中に、日高の熱い息を感じた。
「私、女優なの」
振り向いたはるに、
この
この声が。
はるの情念をかきたてた。
「日高……」
はるは、日高の唇に、自分の唇を重ねていった。
冷たいシルクの感触を感じながら。
小さなボタンを一つ一つはずしてゆく。
日高の腕が伸びて。
はるの背中へ手をからめた。
「はる」
そう、小さく呟いて。
でも。
「………」
はるは、日高を見つめて動きを止めた。
はるの背中に回した日高の手が、小刻みに震え出したのだ。
瞳を閉じて。
眉根を寄せた日高は。
とても辛そうだった。
(ごめんね)
はるは、心の中で呟いて。
もう一度、はずしたボタンを丁寧にかけていった。
「……はる……」
日高が、瞳を開けた。
はるは、少し乱れた日高の髪を指先で直した。
そして、呟くように。
「怖かったね」
そう言って
それを、口元に持っていって。
小さい、小さな声で。
「怖いの怖いの、飛んでけーっ」
「………飛んでいかない」
「怖いの怖いの、飛んでけーっ」
「飛んでいかない」
「まだ、行かないの?」
「行かない」
そのとき。
ちょっとだけ、日高の
ほんの、わずか
日高の手の震えが、止まった。
日高は。
「はるーっ」
って。
もう一度、はるに手を伸ばして、しがみついてきた。
「大丈夫だよ。もう、何もしないから」
「うん」
頷く日高は、はるよりもずっとずっと年下のように感じて。
日高が、はると出会う前のあの空白の二年間を思うと。
(こんなにも疵あとが深いのか)
はるは、言葉が無かった。
(私が、守ってあげる)
日高のことを。
私が守ってあげる。
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