てけてけになった少女 弐

「うんうん、紅子ちゃんだったらやってくれると思ってたよ! この子の処置が終わったらもう一度教育係としてキミに来てもらうけど、とりあえず明日になると思うから今日はゆっくりしてきてね~」

「え、教育係?」

「キミがこの世界に馴染むまでしらべちゃんも付き合ってくれてたでしょ? それと一緒だよ。先輩になるってことだね、頑張ってね!」


 紅子もさとり妖怪の鈴里しらべに拾われた口である。

 そう言われてしまったら辞退などとてもできないではないか。苦々しい顔で 「そういうの苦手なんだよねぇ」 と言う紅子はいつもより少しだけ見た目相応に見えた。


「紅子さん、このあと暇ならその辺散歩しないか?」

「いいけれど、この雪の中にかな?」

「いい喫茶店見つけたんだよ。今日は仕事の疲れもあるだろうし、そこでケーキでも食べないか?」

「ケーキ……」


 その単語を聴いてわりと乗り気になった紅子は了承の意を返し、令一の隣へ歩いていく。


「あれ、そういえば紅子ちゃん今日誕生日なんじゃないの? 丁度いいから奢って貰えばいいんじゃない?」

「………… 今日って何日かな?」

「2月8日だね?」

「あー……」


 紅子は明後日の方向を見ながら声を出す。


「忘れてたのか?」

「…… うん。そうだねぇ」

「そうか、紅子さん誕生日か…… 俺も祝ってもらったしな………… アルフォードさん、確かこの裏の屋敷に紅子さんの部屋もあるんですよね?」

「そうだよー、なんならキッチンもあるよ?」

「よし」

「よしって、なに。どうしたのかな?」

「紅子さん、なんのケーキ食べたい? 俺作るよ」

「えっ」


 令一の料理は何度も食べたことがあり、なおかつ美味しいと彼女は知っている。疲れてあまり出歩きたいと思っていなかった紅子にとって、喫茶店でいいよなんて言葉はとても口に出せなかった。

 外堀を埋められて行っている気分になりながら紅子はしばし考える。


「その、チョコレートケーキ…… かな」

「よしっ、待っててくれ。すぐ作る」

「手伝うよ。待ってるのも暇だし」

「疲れてるだろ? 休んでていいって。足も怪我してるんだし」

「そうだ紅子ちゃん、怪我のための薬はいいの?」

「いい、自力で治すよ。分かった。待ってるから、入るときはノックするように。いいね? 場所は二階だから」

「りょーかい。誕生日おめでとう、紅子さん」

「…… 死んでるのに誕生日祝ってもねぇ」


 目を逸らしながら、紅子はそう言った。


「祝うのはこの前のお返しだよ」

「アタシは口でしかおめでとうなんて言ってないけれどいいのかな?」

「祝う祝わないは俺の勝手だろ?」

「あー、はいはい。分かったよ」


 紅子はそんなやりとりの後に自室に戻ると、ボフンとベッドの中に倒れる。

 ケーキ作りなど、いくら急いでも時間がかかるだろう。

 少しの間だけ寝てしまおう。そう判断して。


 夢の中で畏れのためのゲームもせず、ひとときの休息。

 起きたときには令一が返事がないからと部屋に入ってきていて、盛大に慌てたのはご愛嬌。

 そうして、彼女の誕生日は瞬く間に過ぎて行った。

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