長期依頼編① 『装備更新』


 馬車が集まり、人が集まり。そこは賑わうパーティ会場のようにざわついていた。


「人だかりって苦手なんだよな……」

「お! ラード~! こっちだ!!」


 手を振りながら俺を呼ぶ、我らがリーダー。日差しに照らされ、金色の髪が輝いている。普段より目立つそいつを見て、溜め息を吐きながら足を進める。仲間も、近づいてくる俺を見ている。


 イレーヌ商会の大商い。王都シャバルへと物を運ぶ、その馬車の護衛。ここに集まった見た目やばそうな冒険者たちは、全員その仕事で集まったのだ。

 ぱっと見、御者や商人、護衛の冒険者を全員含めて、50人以上はいる。この錚々たるメンバーでキャラバンを結成し、王都へ向かう。片道で4日以上かかるらしい。


 護送する商品は不明。しかし、イレーヌ商会は魔石などを取り扱っているので、恐らく魔石や魔道具が積まれているのだろう。報酬も一人当たり金貨2枚と、かなりの高額。旅の飯なども準備してくれるというので、この商いの成否に賭けられた金は相当なものだろう。


 俺らのパーティは、先日のゴブリンの巣騒ぎで、全員がD級に上がった。まあ、事情は色々あるみたいだ。あの巣は危険度がC級に設定され(厳密に言えばB級だったのだが)、依頼のランクもC級に設定された。制度の関係で、俺らがE級のパーティだと、特例の先例を作ってしまうので、急遽D級に上げられた。もちろん、実力や信用がD級に足ると判断されたのもあるが。


 こういった、ランクが2段階違う依頼を達成し、それを成功としてギルドが許可してしまうと、今後、自分の実力に見合わない依頼を受けてしまう無謀な冒険者が出てきてしまうので、特例は作りたくないらしい。まあ、分からんでもないが。当然俺らには緘口令が敷かれた。代わりに、報酬金を増やしてもらった。


 まあ、そこら辺の処理は、俺とセイルが寝ている間にアルフィーがやったので、詳しいことは知らんが。パーティ一人当たり金貨3枚貰ったので、装備更新がしたかったんだが……。


 考え事をしていたら、周囲の喧騒が若干遠のいて、パーティの仲間たちと声が届く距離になったので、話しかける。


「……おはよう」

「がはははは! どうしたラード! 元気がないな!」

「人多いところ苦手なんだよ、俺」

「あんたは元気がありすぎよ、ドイル。おはよう、ラード」

「……おはよ」

「おはよう、ラード。なあ、俺らだけ酷いと思わないか」

「同感だ」


 何が酷いか。俺とセイルは重傷であったため、治療に一日を費やした。しかし、他の仲間たちは、その時間を使って装備更新をしていたのだ。


 アルフィーはローブと杖に、なにやら魔力を濃密に湛えているシアン色と、赤色の魔石を付けていた。それに、靴にもはめ込まれている。今までは何もついてない素朴な木の杖だったが、柄の部分は木製でも、杖の上部は金属に置き換わっていて、その中心部には大きな無色の魔石がはめこまれている。


 装いはほとんど変わらないが、アクセサリーのように魔石がはめこまれて、綺麗になった。


 ナーサさんは、緑のフリルがついたプレートアーマーをして、ブーツの前面に、柄になるように金属の装飾がついている。至るところに緑色の魔石がはめこまれており、そこにも魔力を感じる。弓は、間接部分などが金属に変わり、発射部分が二つになっていた。弦が光に反射している。なんの素材だろう。加えて、風にはためくマントを着けていた。頭には、花のような簪を。全体的に、緑。可愛い。ドレス……というには布面積は少ないけど。今までは軽装だったので、印象が変わった。美しい。生足は変わらず見えているところがグッド。でもマントのせいで尻尾が見えづらい。


 ドイルは全身を飾り気のない金属鎧で固めた。ちょっとだけ白い。加えて、両手剣を変えていた。それは、鉾。両手剣に限りなく近い形状だが、槍にも似ているほどの長物。その輝きは鉄のものではない。それよりも白い輝き……プラチナ、だろうか。素人目には分からないが。彼の武器の変化は、ゴブリンキングが持っていた斧槍ハルバードに近づいていく気がして、そこに尊敬や憧れの念が見て取れて、少し笑えてしまう。


 彼は、あの破壊を体現した斧槍の全力の回転攻撃を、唯一真正面から受けたからな。あのとき、思うことがあったのだろう。


 さて、チラ見しただけでも装いを一新したと分かる仲間たちに対して、俺とセイルは何も変わらず。戦力外通告的なものが視界に浮かび上がるようだぜ。


 そのときだった。聞きなれたあの、しわがれた声が聞こえてきた。


「心配すんな。お前たちのも作ってある」

「うおっ……ジジイ、なんでここに。太陽が上にならないと起きない頑固ジジイだったくせに」

「うるせーぞラー坊!」


 ガイナ・アルヴェスタ。俺の命の恩人であり、鍛冶師。背が低くて、鍛冶以外には何もできない偏屈ジジイ。嘘。なんでも一人でやってる人情溢れる爺さん。


「実はな! 俺たちの装備はガイナ氏に作ってもらったのだ! 扱えない素材は存在せず、素材の全ての力を引き出して、加えてそれらを混合させてより強力な装備を作り上げるという、名のある鍛冶師と知り合いとは、驚いたぞ! ラード!」

「ど、ドイル……俺の知らないところまで喋ってくれてありがとう」

 やっぱり、有名だったんだな、ジジイ。当時はよく分からんかったが、店に並んでた防具の素材とか、今見たら卒倒モノだろうな。不死鳥フェニックスとかあったもんな。あ、倒れそう。


 ジジイが照れ隠しのように嘯く。


「ワシはもう半分引退しておる。名など、関係ないわい」

「んでジジイ、さっきなんか言ってなかった」

 お前たちのも作ってあるって言ってたよな。つまり、そういうことだよな。


 そういうと、首を振った。そっちを見ると、2人の若い人が金属製の武具を持っていた。それぞれが、セイルと俺に近づいて渡してくる。


「ラー坊とそこのリーダーの装備も作ってやった。間違いないとは思うが、もしかしたらリーダーの方はサイズが合わんかもしれんな。試してみろ」

「が、が、ガイナ氏が、お、俺に!? 光栄です!」

「やっぱな。ありがとなジジイ。金は?」

「もう貰っておるぞ、そこの小娘にな。安く買い叩かれたわい」


 アルフィーを見ると、舌を出して、頭に手を当て、テヘペロ、とした。なるほど、俺とセイルが寝ている間に随分と派手なことをしていたらしい。少し白けた目で見ておく。

 しかし、ジジイに装備代を払っても、一人当たり金貨3枚か……あのゴブリンは相当だったってことか。まあ、リーフがいなきゃまず勝ち目はなかったしな。


 セイルはそんなパーティの様子は目に入っていないらしく、ジジイの付き人から貰った装備を見て、奇声を上げながら目を輝かせている。セイルはプレートアーマーに、篭手、マント。剣も見たところドイルと同じ素材だな。


「ジジイ、あの剣の素材って何?」

「プラチナと、田魔貝の魔力核、座射亀の甲羅だ。まあ、言っても分からんだろうから簡単に説明してやる。あの剣は鉄製の剣よりも硬く、そして鋭い。魔力に対してある程度抵抗でき、加えて溶解性の毒にもある程度耐えられるものだ。D級に上がった冒険者がまず目指す装備だ。防具も似たようなもんだ」

「へえ……」

「ラード様のものはこちらです」

「あ、はい」


 見ると、防具はセイルとほとんど同じものだ。マントは外套に変わっているが。俺の気に入っている外套とデザインはほぼ同じで、なにやら硬い鱗のようなものが表面に張られている。不思議と、軽いが硬く、重厚だ。


 違うのは、剣。闇を思わせる黒。


「この剣は……」

 手に取りながら呟く。不思議だ。。そう感じる。


「お前さん、魔力を扱えるだろう」

「あ、うん……」

「今までの剣の魔力を、それに移せ。ワシの、『アルヴェスタ』の名は、武器と信頼関係を築ける。お主と長く共に戦った意思を、繋げ」


 腰に下げた鞘から、剣を引き抜く。鉄製の、無骨な剣。ジジイに貰った剣を、これまでずっと使っていた。アルヴェスタの名。

 キングと戦ったとき、アルヴェスタの名を叫び、得た力は、剣との絆の力だった。


 そのとき、リーフが出現した。宙にいきなり現れる。そして、やることはお互い、分かっている。

 リーフと共に、右手に持った鉄の剣の魔力を引き抜く。そして、その魔力を、左手の黒の剣に与える。


 そのとき、黒の剣は光輝く。魔力が全体へと浸透していき、魔力が通った部分が光りだすのだ。やがて、全身が輝きに満ちて、それは収まった。収まったときには、黒に近い、紫色の輝きを携えた剣が、あった。


 それを見て、ジジイが言う。


「影の鉱石。暗い洞窟の中に存在する魔石から生み出された魔力が、鉱物に作用して変異すると生まれるものだ。影の鉱石は、どんな素材の魔力でも、全て打ち消してまっさらな状態にする。そして、一度魔力を与えれば、輝きを放ち、その魔力に適応した状態へと変化する。ラー坊が魔力を扱うなら、プラチナよりはこっちがいいだろう」

「……」

「ラー坊、次はお前さんの魔力を流してみろ」



 試しに魔力を流すと、先ほどよりも強い輝きを放ち、そして収まる。


 やがて、バイオレット色の輝きを放つ剣が姿を現した。それは、俺の魔力と繋がって、妖しい雰囲気を纏っていた。



「ふむ、中々いい剣になったな。ま、まだまだじゃな」

「なにがまだまだなのか分からないんだが……まあ、ありがとなジジイ」


 鞘にはめる。ぴったりだ。鞘に入れていても、剣は俺の魔力とずっと繋がっている。不思議だ。リーフと同じように、魔力を共有する存在がまた一つ増えてしまった。


「ぉお……美しい輝きだ……流石はガイナ氏……」

 自身の剣を宙にかざしながら、見とれた顔で呟くセイル。お前そんな一面があったんだな。


「そこの坊主。サイズはどうだ?」

「あ、大丈夫です! しかし、俺は採寸を受けた覚えがないのですが……」

「ふん。鍛冶師なら一目見りゃ分かる」

 絶対違うだろ。それを鍛冶師の常識にしたら、狭き門すぎる。


「にしてもジジイ、なんでここに?」

「お前さんの経過をギルドから聞いててな。長期の依頼に出るというから、その前に装備は更新しておいた方が良いだろう。というかな、お前さん。時間を無理やり作ってワシのところに来い! 力不足の武具は死を招くぞ!」

「正論すぎて反論のしようがないな……」

「そこの小娘がワシのところに来てよかったわい」


 アルフィーを見るジジイ。アルフィーがちょっと恥ずかしそうにしながら話す。


「ギルドのラロさんと少し話す仲でさ。ラードとガイナさんが知り合いって聞いて……パーティの装備更新したいなって思って、私、ガイナさんのところに押しかけちゃったんだよね」

「ぎりぎりだな……」

 周りを見る。護衛の依頼で集まった面々。昨日今日でよくアルフィーは交渉したし、ジジイは装備を作ったな。本当にぎりぎりだ。


「私、勝手に報酬金使っちゃって……その、絶対必要なことだと思って。ナーサとドイルはその日探したけど見つからなくって、セイルとラードは寝てたじゃない? だから独断専行しちゃって……昨日の夜ご飯のとき、話さなくてごめんね」

 と、申し訳なさそうに言うアルフィー。まあ、うん。


「がはははは! 俺は全然気にしてないぞ! それに、ガイナ氏の武具を見る良い機会になったではないか!」

「……私も」

「俺も気にしてないぞ。むしろ必要なことをよく判断してくれた……ん? そういえば、皆は装備を自分で選んだって感じだな」

 セイルが言う。俺も思ったことだ。


「今日朝早く集まった私とナーサとドイルは、ガイナさんのお店にお邪魔して装備を見てたのよ。まあ、私が言った通りに作ってもらった装備でほとんど文句はなかったみたいだけど……ドイルは、武器を変えたのよね」

「がはははは!」

 背中をこちらに向けて、背負った鉾を見せびらかすドイル。分かった分かった。もう見たから。


 ていうか、俺もちょっと遅れ気味だけど、セイルも遅れてたんだな。


 セイルに近づいて、小突きながら言う。


「俺たち完全に仲間はずれって感じだな」

「ガイナ氏の武具……もはや文化財……見学……うらやましい……」

 だめだこいつ。


「ふん。ワシはもう個人の鍛冶師だからな。好きに見に来い」

 ジジイが気を遣ってセイルに言う。

 それを聞いて、「ありがとうございます絶対行きます!」と感謝感激な様子でジジイの手をぶんぶん振るセイル。普段は冷静なんだが、興奮するとぽんこつだ。


 個人の鍛冶師、か。以前は商会にでも勤めてたのかな。


「……お前さんたち、依頼主から説明があるみたいだぞ。ほら、行ってこい」

 ジジイが俺とセイルの背中を押しながら言う。


 広場のほうを見ると、人だかりが一箇所に集中していた。その正面に、アクセサリーをこれでもかと身に着けた、見るからに富豪なおっさんが立っている。



「ジジイ、ありがとな」

 振り返って、言う。


「ふん。さっさと行ってこい。そんで、生きて帰って来るんだぞ」

 腕を組んで、仁王立ちしながら、ジジイは言う。



 そんな様子に、笑みを溢して、正面を向く。


「ありがとーガイナさん!」

「……ありがとうございました」

「うむ! 感謝だ! がははははは!」

「俺、絶対ガイナさんの店、見に行きますからーっ!!」


 そうして、各々、正面を向き、肩を並べて、広場へ向かった。



______



「――というわけで、中心に商品を積んだ馬車を、皆さんにはそれを囲うようにして、護送する馬車に乗ってもらいます」

 と、壇上に立つ、偉そうなおじさんが言う。偉そうというのは、その人がそういう性格をしているのではなく、装いからして偉いだろ、という推測の言葉だ。


 イレーヌ商会長。商会長自らが依頼の説明をすることに何の意味があるのか、という考えがなくもないが、それほどにこの商いは大きいのだろう……ということを冒険者に意識してもらう意図があるのかもしれない。


 キャラバンの構成は簡単だ。中心に3台の馬車を据える。そこに商品が積まれているのだ。そして、それを囲うようにして、護衛の馬車を10台。俺たちは前方右翼の位置の馬車に乗る。護衛には、商会のお抱えの者もいるらしい。頭の部分にはA級冒険者のパーティが設置され、最後尾には商会お抱えの護衛。どちらも重要な位置であり、警報の伝達が一番早い位置だ。


「みなさんに地図を配ります」


 商会長が視線を右に移して、何かを指示すると、人ごみから地図が回ってきた。


「ほらよ」

 セイルが、前の冒険者から地図を受け取る。パーティ毎に一つずつ。

 セイルが他の冒険者に回すのを見てから、地図を確認する。みんなも覗き込んできた。


「東門から出て、街道を通っていきます。道中にベルンダやサモミールがありますが、寄りません。王都まで直進します。緊急事態が起きたとき、例えば食料が足りなくなってきたときなどに、寄る場合はあります。想定している休憩ポイントは地図に記してあります。野営するところは赤い丸で記してあります。各自確認して置いてください」

「なるほどな……」


 地図には、森にキャラバンが近づく箇所や、盗賊等がよく巣食っている場所などの、危険地帯が記されている。騎士の討伐隊の手が回らない森の奥深くなどに、盗賊はいる。年々、冒険者崩れの盗賊が増え、騎士が討伐隊を組んで遠征に出る……イタチゴッコの様相を呈しているらしい。


「それでは、関門の確認が取れたので、15分後に出発します。皆さん、今回はよろしくお願いします」

 そう言って、商会長は壇上から降りて、脇に消えていった。



「おーい! 皆、聞いてくれ!」

 一人の冒険者が、その場で声を張り上げる。

 今回の依頼での指揮系統を任された、A級パーティのリーダーだ。赤色の髪が特徴的な目立つ人だ。


「俺の名はシュード! 全体のリーダーを任された! いいか、非常時には必ず俺に連絡を入れろ! まず、皆のランクと、ある程度、何ができるかを聞かせてくれ! そうだな……まず、君たちから聞かせてくれ。他の者も聞かせてもらうから、そこに並んでくれ!」


 シュードさんは近くのパーティに話しかけている。その間に、皆が列を作った。やがて、順繰りにパーティが紹介をしていく。それを、他の冒険者も聞いている。護衛依頼で必要なことは、連携だ。お互いのことを知るのは、連携において非常に重要なことだ。


「俺たちも並ぼう」

 セイルの言うことに従い、俺らも列に並んだ。



______



「さて、次は君たちだな。簡単でいい、自己紹介してくれ」


 セイルが一歩前に出て、言う。


「リーダーのセイル・ノクトーだ。俺たちはD級のパーティで、剣士2人、戦士1人、ワイルドハンター1人、魔法使い1人だ」

「なるほど。ワイルドハンターがいるのは心強いな。どこの馬車だ?」

「前方右翼だ」

「分かった。走行中の警戒は頼ることが多くなるかもしれない」

「ナーサ、平気か?」

「……ラードもできるよ」


 え、そこで俺に振るの。


「ほお? ラードってのはお前か」

 シュードさんがこちらを見て話しかけてくる。見透かすような視線が痛い。


「まあ、はい」

「お前も偵察ができるのか? 俺のパーティにも斥候役がいるが、一人しか居ない。右側の警戒を君たちがしてくれるなら助かる」

「……ナーサさんには負けますよ。俺は痕跡を見ての推測と、後は魔力の動きで敵を感知することができるだけです」

「……お前、剣士だろう。そんなことができるのか。自信は?」

「多少は」


 痕跡から魔物の位置を推測するのは、覚えれば誰でもできることだ。俺も意識すればすぐに覚えられた。魔力で敵を感知するのは、魔性体の特徴……なんだと思う。生き物が動くと、空気に紛れている魔力が動いて、ざわつく。その変化が、俺には分かる。魔力感知の応用だ。


 それに、偵察ならリーフが居る。彼女は精霊だし、自由に飛びまわれるので、偵察にはもってこいだろう。


「分かった。右側の偵察を君たちに任せよう。何かあったら、御者を通じて俺たちに連絡してくれ。俺たちの馬車は先頭だ。いいか、非常時は俺が指示を下すが、自衛のためなら好きに動いてくれ。それが良い結果に繋がることなら、自分の意思で動くんだぞ。俺は子守を任されているわけじゃないからな」

「分かった」

「後、中央右翼にも、サブリーダーとして伝令役に任命されたパーティがいる。馬上を素早く動ける獣人がいるらしい。そいつらも頼れ。よし、君たちはもう馬車に乗ってくれ」

「了解した」


 そこを退いて、他のパーティに譲る。そして、俺たちの馬車に乗り込む。中には、食料や、テントなどの野営セットに加えて砥石や浄水など、様々なものがあった。

 それらを確認していると、正面の布を捲って御者が顔を出した。髭を生やした細身のおっさんだ。


「どうも、あっしが今回皆様の御者を勤めさせていただきやす。ゴーダと呼んで下せえ」

「よろしく」

「後5分ほどで出発しやす。揺れますんで、耐性がない方は今のうちに、酔い止めの薬を飲んどいたほうがいいでっせ。薬はそこの箱に入っておりやす」

「ありがとう」


 そういい残して、御者は布を閉じた。馬車には、哨戒用の見張り台のようなものが設置されている。先ほどの御者が閉じた布を開けて右側にある。


「長旅になるのよね……」

「そうだな!」

「……ちょっと寒い」

「俺たちパーティでは初めての長期依頼だな。みんな、頑張ろう」


 各々楽な体勢を取って座る。定位置が決まったな。俺は一番後ろ。まあ、後ろは布を捲れるので、ここなら偵察もしやすい。


「リーフ、いるか?」

『うん』

 宙に出現し、くるりと一回転して静止し、こちらを向くリーフ。


「今回は頼りにするよ」

『うん』

 すまんな。俺も頑張るけど、リーフの偵察が確実だ。

 肩に乗ってくる精霊に、安心感を覚えながら、前を向く。


 すると、正面の布が捲られ、御者が顔をだした。


「みなさん、出発しやすぜ」


 周囲から、馬が駆ける音と車輪が転がる音が聞こえる。やがて、この馬車も動き出し、後方の景色が遠ざかっていく。



 そうして、キャラバンは動き始めたのだ。目的は王都シャバル。予想、往復8日の、旅が始まった。

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