第三十三話 VS三部
「和美の方・・・・・・あの感じ、厄介そうやな。とはいえこっちも──」
和美の側に鬼の影響を強く受けた気配があるのを奈菜は察知していた。和美と矢附が危険であると心配する気持ちもあったが目の前の光景を無視するわけにもいかなかった。
「笠原さんさぁ、何で逃げるんだよ!?」
「──厄介やわな」
西出入り口を出てすぐ、ボロボロの服装をした三部が片手で柳原の首を掴み持ち上げていた。三部の足下には井野戸が倒れていて同様に数人が周りに倒れている。赤い水溜まりが倒れた人々を浸す。
怯えた目で三部を見ながら笠原は身体を震わす。
「しゅ、主任・・・・・・」
「しゅ、主任、じゃないんだよなぁ。ここは止めてくださいとか、そういうんだろ笠原さんさぁ。何でいつも君はそう受け身なの? 殴り合おうよ、皆やってんだからさ」
三部の身体に赤い光が纏う。水溜まりから赤い小鬼の腕が伸びて柳原の身体を掴んだ。柳原は身体をばたつかせ三部の手をほどこうとするもびくともしなかった。
「笠原さん、君さぁ、いつまでも受け身なのはよくないよ。僕らは仲間なんだからさぁ、職場仲間ぁ。意見は言い合って、仕事の案は出し合わないとぉ」
「そ、そんなこと・・・・・・」
「ああ、バイトだからって言うのかい? そんなのダメだよ、甘えだよ。バイトだからっていつまでも指示待ち人間なんて、給料泥棒だよ、わかる? 率先して何をすればいいのかと考えて動かなきゃ。例えば、今だって、そんなとこで震えていればいいだなんて、クソみたいなことをやってないでさ、皆を殴らなきゃ。皆やってんだからさ!!」
三部の手に力が入り柳原の首を一層強く締め上げる。言葉にもならない苦痛の声を柳原が漏らした。
「いやいや、どないな理屈やねん、それ」
息を潜め静かに三部へと近づいていた奈菜は飛び込むような形で一気に距離を詰めた。正に懐に飛び込むと光を纏った手の平を三部に当てる。肩に力を入れて押し込んだ。光が破裂する。
三部の身体が曲がって吹っ飛ぶ。三部から手離された柳原は小鬼の腕が支えとなって姿勢はそのまま維持された。
「悪いんやけど、あんま時間かけてる暇無いんや。ちゃっちゃと終わらすで」
「・・・・・・み、こ?」
「誰・・・・・・?」
柳原と笠原を一旦無視して奈菜は光を纏う手で小鬼の腕に手刀を振り下ろした。草木を斧で斬るように、ズパッと音がして腕は斬れた。解放された柳原が地面に倒れる。
奈菜は辺りを見回した。倒れてる者達が数人いるが誰も彼も意識は無いようだ。気を失っている。そうなってくると無事逃げおおせた従業員から支店長の話を訊くというのは難しいだろう。訊くならばやはり三部か。
三部の方に目をやると、三部は腹部を押さえゆっくりと立ち上がろうとしていた。
「オイ、お客様。巫女装束なんて着やがって正月はまだだぞこのヤロウ! クリスマスの準備もこれからだってのに急かすなバカヤロウ!!」
「ああ、なんやクソヤロウ。そんなんどうでもええから、支店長何処にいるか吐けや」
「口悪い巫女だな、オイ! 教育してやる!」
三部は体勢を元に戻すとその怒りをぶつけるように強く足踏みをした。地面が揺れて西出入り口横の駐輪場に置いてある自転車が跳ねるように倒れた。
猛牛のように鼻息荒く三部が足を踏み込んだ。大股で一気に奈菜との距離を詰め拳を大きく振りかぶった。豪速球のような拳が空気を薙ぐ。
受けとめるには不味そうだ、奈菜はそう判断して身を低くした。豪速球に合わせて下から腕を掌底で突き上げる。へぎゃ、という奇妙な音が鳴り三部の腕が曲がる。いや、折れる。
関節とは逆方向に折れた腕を奈菜は引っ張り、倒れてくる三部の鳩尾に肘を突き刺した。
肘が深く突き刺さった三部の身体はクの字に折れて、奈菜は肩を押し当てて三部の顔を上げさせる。流れるように三部の顎を掌底で突き上げた。
仰向けに倒れる、三部の身体はそうなる動きをしていたがそれは異様な止まり方をした。宙に固定される。
小鬼の赤い腕が三部を掴んでいた。奈菜が舌打ちをして腕を薙ぎ祓おうと手を振る。しかし、その手が届くより早く赤い腕は三部を喰らった。
一瞬、錯覚だと誤解するほどの刹那。三部の身体を次々と赤い腕が喰らい、再生した。折れた腕もボロボロの様相も全て再現して再生した。
奈菜の手が小鬼の腕を薙ぐ。しかし既に遅かった。
ぶちっ、と筋繊維を引きちぎり強引に体勢を元に戻した三部は奈菜の腹部を下から小突いた。振りの少い殴打は、それでも重く苦しい一撃だった。今度は奈菜がクの字に身体を曲げる。三部は奈菜の顔を片手で掴むと力任せに振りかぶり、投げた。
ひしゃげたパトカーの停まる車道、アスファルトに奈菜の身体は叩きつけられた。
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