第67話

「オンギャァ、オンギャァ、オンギャァ」


「まあ、随分と元気な子ね」


「申し訳ありません。

 直ぐに下がらせます」


「いえ、いいのよ。

 赤ちゃんは泣くのが仕事だもの。

 元気よく泣いてくれたら安心だわ。

 メイソンには知らせたの?」


 私は我が国に疎開しているマリアンが子供を生んだと聞いて、急いでお祝いにかけつけました。

 これでホワイト王国とマイヤー王国の絆が一つ増えました。

 問題はホワイト王家とマイヤー王家との絆ではなく、マイヤー王家とベイリー王家の絆だという事ですが、今の状況で謀略を仕掛ける必要はないと思います。

 それに、いくらなんでも赤ちゃんを殺すんなんてやりたくありません!


「メイソンには知らせたのですか?」


「はい!

 船に乗る直前に妊娠が分かって、船旅を心配してくださっていたので、機会があるたびに手紙を送らせていただいています。

 無事に摂政殿下の庇護していただいたことも、日々この子がお腹で育っていたことも、無事に生まれたことも、全てお知らせしたいます」


「そう、それはよかったわ。

 名前は決めたの?」


「はい!

 メイソンが占領したゲラン王国に新たな領地を得たのです。

 その家を護って欲しいと、新しい家という意味のザビエルと名付けました」


「そう、そうなの。

 それはいい名前だわ。

 私からもお祝いを渡したいわ。

 受け取ってくれるかしら?」


「恐れ多いことですが、喜んで受け取らせていただきます」


 やはりメイソンは一番厳しい場所を任されているのね。

 領地を与えられたとはいっても、ゲラン王国は面目にかけて、意地でも取り返そうとするでしょう。

 領地を奪われた貴族士族も死に物狂いで取り返そうとするでしょう。

 堅固な城砦と天然の難所にこもって守るのではなく、勝手の分からない元敵領を守り維持しなければなりません。


 マリアンもそんなことは分かっているでしょう。

 内心は心配で仕方ないでしょう。

 領地などどうでもいいから、安全な城砦にこもっていて欲しいと、心から思っていることでしょう。

 ですが、王家の養女として、他国からやってきた新興貴族の妻として、絶対に口にすることはできないでしょう。

 ここは義姉として恩を売っておきましょう。

 我が国の利益にもなって、メイソンの手助けにもなって、マリアンの心を軽くするお祝いが必要ですね。


「メイソンはホワイト王家の養子で、私の弟です。

 そのメイソンが敵地に領地を得たのですから、お祝いは武具と兵糧がいいと思うのですか、マリアンはどう思いますか?」


「ありがとうございます、ありがとうございます。

 そうしていただければ、メイソンも助かります!」

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る