第3話 まだ、知らない。彼のこと

彼に、私が雫石だとバレないよう、知らないフリをした。私は、早々と話を切り上げ、その日は屋上を後にした。

最後に彼は「今度は、君も一緒に歌おうよ」などと意味の分からないことを言っていたが、無視した。

普通、今日初めてあった、全く知らない人に、一緒に歌おうなどとは言わない。彼に対しての第一印象は『変人』だった。


後日…

私は、また、屋上に上がった。彼はいないだろうと勝手に決めつけていた。


だが、私の予想は見事に、外れた。

「あ、またあったね!」

元気よく、挨拶された。私が、挨拶だけして、そそくさと帰ろうとすると、彼に引っ張られた。

「服…のびます」

「あ、あぁ。ごめんね?」

私が、かなり大切にしているセーターなので、少し苛立ってしまった。

「いや、大丈夫」

申し訳なさそうにこちらを見て、反省しているように見える。そんなに、私が怒っているふうに見えたのか…私も、少し反省だな。

「ねぇ、名前なんて言うの?この間あった時、聞けなかったから。」

いや、こいつ…反省してないな。彼はニコニコしながら、私の名前を尋ねてきた。

「…加賀見 なる」

「なるちゃんか!よろしくね!!」

「君の名前は?」

「俺は住岡 湊!湊でいいよ〜!!よろしくねぇ!」

語尾に、沢山びっくりマークをつけて、挨拶してくれた。元気いいな…

「ねぇ、こないだの約束覚えてる?」

あぁ、あれの事だろうか。歌を歌おうと言ってきたやつ…めんどくさいので、私は、しらばくれる事にした。

「そんな約束、した?」

すると、湊が笑いだした。めちゃくちゃ笑っている。

「はぁぁ〜!面白い!!…なるちゃんさぁ〜嘘つくの、下手だね笑笑」

そう言うと、湊はまた、笑いだした。何がそんなに、面白いのか…っていうか、私、そんなに嘘下手なの!?

「なるちゃんの顔に、書いてあるよ笑笑しらばくれようって笑笑」

まじか!!!?そんなに、分かりやすいのか…

「むちゃくちゃ、顔に出てる笑」

また、湊が笑いだした。私がムスッとしていると

「まぁ、なるちゃんもしっかりと覚えてるみたいだし、歌おう!!!」

「え、なぜ!!!!!!!!!!!???」

なぜ、なぜそうなった!今の会話は、私が歌いたくないという事をくみ取って、また、今度ねってなる流れでしょ!?

しかも勝手に、私の手をつかんで、逃げられないようにしてある…

♪~

湊が歌い出した

「へっ…?」

思わず、声が出てしまった。すると

「どう?歌、上手いでしょ笑」

そう言って、また歌い出した。

上手いの度を越している…どう表現したらいいのか、分からない。

ゾクゾクした。鳥肌がブワァーーーとたって、湊の歌声に身体ごと持っていかれそうな、変な感覚に襲われる。


この声が、ほしい…


私は、悪魔に出会ってしまった。

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