集合

 リーズたちがベースキャンプで野営をしている頃、ただ一人伝令に走っていたフィリルが夕陽が落ちる頃に村へ帰ってきた。


「せんぱーーーーいっ! フィリル、ただいま帰還しましたっっ!! …………ってあれ? なんだか大勢人がいる?」

「あらフィリル、帰ってきたのね。あなた一人?」

「はいっ! 村長さんから伝言を頼まれてますので!」

「ヤッハッハ、ちょうどいい時に帰ってきたねフィリル。今ちょうど夕食にしようとしていたところなんだ」


「「「ワーッハッハッハ! カンパイっっっ!!」」」


 彼女がブロス家に戻ってくると、何やら見慣れない人々が食卓を囲み、木製のジョッキを掲げている。

 ただ、そのうちの一人はフィリルにも見覚えがあった。郵便屋のシェマだ。


「あ、フィリルちゃん。おひさー! リーズさんやアーシェラの探索についていったって聞いたんだけど、もしかしてみんな帰ってきたの?」

「お久しぶりです郵便屋さん! あたしは伝言を頼まれたの。リーズさんたちは明日帰ってくるよ」

「そっかぁ、危うく無駄足かと思ったけれど、いいタイミングのようだね。こっちの人たちは、勇者パーティーで一緒に戦った僕やアーシェラ、そしてリーズの友達さ」

「よう嬢ちゃん。ツィーテンの妹さんなんだって? 邪魔してるぜ」


 とりあえずお互いにいろいろと話すことがありそうなので、フィリルも一度手を洗って体を簡単に拭いたのち、夕食に加わることにした。

 なんだかんだ言って、ここまでずっと走ってきたので彼女もお腹がペコペコだ。


「俺はスピノラ。ついこの前まで北方で復興事業の手伝いをしていたんだが、訳あってシェマにここまで運んでもらった。この二人も、シェマの商売仲間に運んでもらった口だ」

「旧街道が雪で越えられないから、飛竜で運んでもらったのよ~! 飛んでいる間凍えそうになるし、運送料も高く取られるし大変だったわ」

「ま、おかげで変な奴がそう簡単にこの村に来れないから、我慢するほかないわよ」


 村に来た客人三人は全員元勇者パーティーの二軍メンバーで、そのうちの一人は北方の都市国家ベラーエンリッツァの復興作業に携わっていた「解体名人」ことスピノラ。

 そして、中央から来ていた黒髪の女の子シャティアと、南方から来た物静かな雰囲気の女戦士セレン…………彼らは雪で道がふさがっている旧街道を越える代わりに、シェマとその飛竜使いの仲間たちに頼んでこの村まで運んでもらったのである。

 もっとも、人を二人載せて空を飛ぶのは飛竜にとっても負担が大きいため、事前にかなりの額の料金を支払う必要があったうえに、極寒の空を飛び続けるので数時間もの間地獄のような寒さを味わうことになる…………


「ベラーエンリッツァもある程度復興しそうだから、将来的に人手が余ったらこっちの開拓村に人を送ろうと思ってな。俺たち三人はその下見に来たってわけよ」

「けど……それ以上に、手紙邪伝えられないこともたくさんあったから、アーシェラに相談しようと思ってたの。まさか長期探索に出払っているとは思わなかったけど」

「私たちも本当は今の仕事が忙しいんだけど、何とかスケジュールをねん出してきたの! あんまりゆっくりもしていられないんだけど…………ちょっとくらいは、ね?」


 アーシェラは、リーズたちと一緒にカナケル王国復興を目指すと誓ったときから、ロジオンにあてた手紙で、将来的に人手がたくさん必要になるから用意してほしいという要望を送っていた。

 ロジオンは現在赤ん坊が生まれたばかりで、なかなか本来の仕事に戻れないでいるが、代わりに北方、中央、南方の三つの連合体からそれぞれ代表者を一名ずつ出し合い、早いうちに下見をして何が必要なのかをその目で見ることにしたのだ。

 しかし、今回はそれ以上に重要なことをアーシェラに伝える必要があるらしい。


「そういうフィリルは、伝言があるって言ってたわよね。村長やリーズたちより先に帰ってきたということは、よっぽど重大なことがあるみたいだけど」

「ハフハフ! そうなんですよセンパイ!!」

「しゃべる時は一旦お皿を置きなさい」

「あい!」


 お気に入りの辛味調味料を大量に投入して、元の色が失われるほど真っ赤に染まった激辛スープを飲みながら、フィリルも要件を話すことになった。


「あたしたちは昨日とうとう川下の港町を確保しました!」

「ヤヤヤ、やはりか! 川下に旧カナケル王国の大きな港町があるという予想は当たっていたんだね!」

「しかも、確保できたのね。であれば、今後は私たちの所から船でこっちに来れるかもしれない」


 まずは、川下の港町ルクリアの確保に成功したことを話すと、その場にいた人々はすぐに盛り上がった。

 冬になると旧街道が使えない以上、別のルートを確保する必要があったのだが、それが海路で実現するかもしれないと分かれば、この先山向こうとの交流もグッと楽になるだろう。

 特に南方同盟の代表であるセレンは、勇者リーズがいる開拓村との数少ないルートの一つを獲得できるチャンスにたちまち目の色を変えたのだった。


「それと――――この話、していいのかな?」

「あー、俺たちのことかな? この二人は俺の親戚だから大丈夫、情報を変なところに漏らす心配はないよ」

「そうそう! コイバナ以外は漏らしたりしないから心配しないでー♪」

「コイバナも漏らすなバカ姉貴!!」


 外部に漏れると大変な話なので、一般の運送屋の前で話していいか躊躇するフィリルだったが、こんなこともあろうかとシェマは親戚の運送屋姉妹に極秘任務を頼んだのだ。

 少なくとも、そのあたりの一般の運送屋よりははるかに漏洩の可能性は低いはずだ。


「じゃあ話しますけど…………あたしたちが港に着いたちょうど次の日に、リーズさんたちのお仲間の船乗りの人が、リーズさんのご家族を運んできたんですよ!! そしてリーズさんのご家族は、もうすぐそこまで来ていますっ!!」

『おおっ!!』


 今度はセレンだけでなく、その場にいた全員が思わずガッツポーズをするほどの朗報だった。

 今後は少なくとも、リーズの家族が人質に取られ、犠牲になったり、最悪の場合――――リーズが脅しに屈して王国に戻ってしまうなどの可能性はなくなったのだ。


「マリヤンから連絡が途絶えた時はどうなったかと思ったけど……」

「ヴォイテクが成し遂げたようね、流石だわ」

「ああ、ほとんど分の悪い賭けだっただろうに、奴は男が違うなっ!!」

「うんうん、ロジオンにもいい報告が出来そうだし、お酒もますますおいしくなるねー」


 いくつもの懸念事項が同時に消えたことで、この場にいる人々は困難な任務を成し遂げたヴォイテクへの賛辞を贈った。

 彼の功績は、今後物語でも語り継がれるほどのものとなることは疑う余地もないだろう。


「あ、それとセンパイ。村長さんから簡単な手紙もあずかってるよー」

「村長からの手紙? 何かしら」


 と、ここでフィリルはあらかじめアーシェラから預かっていた手紙をユリシーヌに手渡す。

 その手紙の中身とは…………

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