面談
リーズと母親マノンが久々の再開でお互い抱き合っているのを、アーシェラは後ろからじっと眺めていたが、そんな彼には別の人物が声をかけてきた。
「もしかして、あなたがアーシェラさん?」
「はい、僕がアーシェラですが……リーズのお姉さんですか?」
「ええ……私がリーズの姉、ウディノよ。あなたの噂は船長さんからいろいろ聞いているわ」
リーズの姉ウディノは、情熱的な紅色の髪の毛や左右の瞳が金銀のヘテロクロミアなところを含めて全体的な容姿がリーズそっくりだが、雰囲気はかなり落ち着いており、なんとなく学問所の教師のようなイメージがある。
「リーズが冒険者になったときから、色々とお世話になっていたばかりのようで。妹は随分手がかかったでしょう?」
「手が掛かっていないと言われると嘘になりますが……だからこそ好きになったと言いますか。ふふっ、
「それはもう……冒険者になると言って家を飛び出し、次に会ったときは勇者になって、魔神王討伐までしてしまうなんて。本当に、自慢の妹よ。それに、リーズが大活躍できたのも、きっとあなたのおかげなのね。リーズがすごくなついているのが遠目から見てもわかったもの」
「……わかるんですか、そんなことまで」
「私はリーズの姉だもの。妹とは違って、私は魔術士になったけれど、なんとなくビビッと来るものがあるわ。見た目も、その話し方も、ね♪」
ウディノは、自身も言っているようにリーズと違って魔術が得意分野だった。
実際、リーズの母親であるマノンの家系は代々有力な魔術士を輩出しており、ウディノにはそんな母系由来の素質が開花したようだ。
リーズが冒険者時代は剣一辺倒だったのに、勇者になる訓練を受けてからは強力な術が使えるようになったのも、両親の才能のいいとこどりをした結果なのだろうと思われる。
(なんだか話してると安心する人だ。リーズと似ている部分がもっとあるのかもしれない)
初対面であるにもかかわらず、なんとなくマノンとは話が合いやすいと感じるアーシェラ。
だが、そんな二人の和気藹々な雰囲気を感じ取ったのか、リーズが慌てて二人の間に割って入ってきた。
「ちょっとちょっとウディノ姉さんっ! シェラをとっちゃやだっ!」
「わっと、リーズ!? そんなにムキにならないでよ~」
「ごめんよリーズ……不安にさせちゃって」
いくら久々に再開した家族と言えども、自分を差し置いてアーシェラと仲良くするのは我慢ならないようだ。
(でも、大丈夫かな……探索が長引いているとはいえ、リーズは色々と敏感になっている気がする。何か悪い兆候じゃないといいんだけど)
とはいえ、リーズはいつもはこんなに嫉妬深くないし、ほかの村人の女性――例えばイングリット姉妹とリーズ抜きで話していても、ここまで露骨な反応はしなかった。
長期間の探索で警戒心が高まっているからかもしれないが、違和感を感じた根本的な原因はアーシェラにもわからなかった。
「あらあら、ダメよウディノ。リーズのものをとっちゃ。小さいころそれで喧嘩したでしょう?」
「だ、だからっ! 別に取ろうっていう気はないから、母さん」
「ええっと……リーズのお母さまですよね。お初にお目にかかります、アーシェラです。聞いての通り、リーズとはつい先日夫婦の契りを交わしました」
「伺っております。リーズも好きな人と一緒になれてよかったわ。アーシェラさんも、これからは私たちと家族ですわね、私のことも「お母さんと」呼んでくれてもいいんですよ、うふふ♪」
「そ……そうですか。善処します……」
(な、なんか妙にやりにくいな、リーズのお母さん。普通に話しているだけなのに)
そして、リーズの母親とも初顔合わせとなったアーシェラ。
懸念されていた平民……それも他国出身のアーシェラへの差別感情は一切感じないところは拍子抜けしたが、それはそれとしてどことなく「歯車が合わない」感覚があった。
嫌な人と言う印象は全くなく、貴族出身にしては非常に親しみやすいとも感じるのだが……
「とりあえず、ここで立ち話をするのもアレですし、長い船旅でお疲れでしょう。それに、この港町も完全に安全とは言えませんので、探索拠点までお連れします」
「荷車しかないけれど、ちょっと我慢してね」
「いいよいいよ、私も一緒に歩くわ! ここの所、船の上で窮屈してて陸地を歩くのが恋しかったのよ! それより、荷物もたくさんあるから一緒に運んでくれるかしら」
「おう……長い間船に押し込んですまなかったな。アーシェラ、ちょっと荷下ろしとこれからのことで相談があるから、少しだけ時間をくれねぇか」
「わかったよヴォイテクさん」
久々の家族との再会で、リーズもアーシェラも、それにストレイシア男爵一家も積もる話はたくさんあるが、彼女たちは船旅で疲れがたまっている。
ここでずっと立ち止まっているわけにはいかないため、長話は後にして今後の動きについて色々決めることにした。
船の固定を終えたレスカ姉弟やフィリルたちも船員たちの荷下ろしを手伝い、アーシェラたちは今後の予定を相談するために少し離れたところに向かった。
(さてと……やっと陸に着いたのは良いけれど、この先どうしようか……)
そして――――使用人に化けている第三王子の手先モズリーは、陸に降りてもなお下手な動きができないと悟り、もうしばらくは動きを我慢することにした。
おそらく、ヴォイテク船長には自分の正体がばれていることもうすうす察知しており、あえて離れたところでアーシェラと相談するのも、彼女の扱いについて相談する意味も含まれているのだろうと察したのだった。
人々の思惑が複雑に交差する中、リーズの家族の受け入れは粛々と進んでいった。
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