第108話 つなぐ(1)

夏希は高宮家に挨拶に行くことになった母が心配であったが


母は普段の明るさと気のよさで、話は和やかに進んだ。



「ふつつかな娘ではありますが。 今後ともよろしくお願いします、」


最後にはそう言って頭を下げてくれた。



「それで。 式なんですけど。 主人とも話しておりましたんですが、9月ごろはどうかって。」


高宮の母は言った。



「9月?」


高宮も初耳だった。



「まあ準備も大変だしねえ。 そのくらいはかかるでしょう。 やっぱり隆之介の顔を立てて、ノースキャピタルホテルで挙げた方がいいかしらね。 そしたら、200人は入る会場で・・」


母はどんどん言い出した。



「200人!」


夏希は驚いた。



「主人の関係も考えるとそのくらいはねえ・・。」



200人て。


ちょっとした小学校くらいいるじゃん・・



夏希はそんなことを考えてしまった。



「あ、ウチは30人くらいでいいです。 親戚少ないし、友達合わせてもそんないないし、」



そして、遠慮がちにそう言った。



「それじゃあ釣り合いがとれないじゃない。 ご近所の方とかでもいいから100人はお呼びなさいよ。」



「そ、そんな景気よく、呼べませんよ・・」


夏希の言葉に高宮はぶっと吹き出してしまった。



そして、両手で顔を覆って大笑いする高宮に



「ちょっとお、何そんなに笑っちゃって・・」


夏希は彼の背中を揺すった。



「景気よくって・・」


何かツボに入ってしまったようだった。




高宮の両親と恵は


こんなに大笑いしている彼を見たことがなく


逆に驚いてしまった。




「ちょっと夏希。 景気よくだなんて言って。 酉の市じゃあるまいし、」



母もそんなことを言い出して、高宮はさらに笑いが止まらなくなってしまった。


高宮の母も思わず、堪えるように口元を抑えて吹き出しそうになってしまった。



「お母さんってば! も~~、恥ずかしいなァ、」


夏希が母の背中を叩くが、



「恥ずかしいのはあんたでしょう、」


母も夏希を小突き返した。




そんな雰囲気で(?)


特に緊張することもなく


高宮の両親と夏希の両親の対面は終わった。




「きっと9月なんてあっというまだよ。 ちゃんと準備しないとね。」


家に戻ってきた母は夏希に言った。



「うん。 住むところもね、この近くで隆ちゃんが探してるんだけど、」



「結婚してもフツーに勤められるの?」



「え? フツーだよ。 なんで?」



「昔はさあ、社内結婚なんて女のが辞めなくちゃなんなかったりしたしね。」



「今はそんなこと言ってたら大変だよ。 男女こよう・・ナントカで。」


いつものように難しい言葉は出てこない夏希だった。



「ああそうだ。 斯波さんだっけ? 上司の人。 ごあいさつしないとね。」



「お正月3日くらい旅行行くって言ってたし。 今、いないよ。」



「結婚したの? あのキレイな人と・・」



「ああ、ウン。 去年の終わりくらいに。 ま、元々夫婦みたいなもんだったしね。」



「お世話になったね。 あの人たちにも、」


と言われて




確かに。




ホクトに勤めるようになってから


どれだけ斯波さんたちにはお世話になったんだろーか。




夏希はちょっとしんみりとして考えた。




あっという間に仕事始めになり、いつもの日常となった。



「そう。 9月なの。 決まってよかったわね。」


萌香とランチを取りながら、夏希はいきさつを話した。



「はあ・・」


浮かない顔の彼女に



「どうしたの?」


萌香は優しく聞いた。



「・・なんか。 慌しくどんどん決まって行って。 あたし、ほんとにだいじょぶなのかなあって。」


夏希は不安を口にした。



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