第106話 光(2)

翌日は夏希の母が上京した。


「あ~、重かった~。」


母はバカでかい荷物を持っていた。




「お・・おも・・」


それを持った高宮は思わず言った。



「なに持ってきたの、いったい・・」


夏希も呆れた。



「え、野菜とか。」



「ちょっとぉ。 隆ちゃんのご両親にも野菜じゃないでしょうねえ・・」



「バカだね。 いくらあたしでもそこまで常識知らずじゃないよ! 高宮さんのご両親にはちゃーんとしたの持ってきたから。」



「田舎のもので大丈夫かなァ、」


夏希は心配したが、



「気にしなくていいよ。 そんなの気持ちだし。 わざわざ福島から来てくれたんだから・・」


高宮は笑った。



高宮の両親と夏希の母が顔を合わせるのは明日。


この日は母をいろんなところに連れて行ってやって、夜は夏希の部屋で3人でわいわいと食事をすることにした。



母はいつもと同じだった。



夏希とバカなことで言い合って、笑って。



高宮はそんな二人を見ていたが、何だかどんどん無口になってしまった。



「え、どーしたの? 美味しくない?」


あまり食べていない高宮に夏希の母は言った。


「え・・いえ。」


「ほらあ、やっぱりさあ、このタレ普通のポン酢のが良かったんだよ。 ないからってミカンを搾っちゃったからさあ・・」



夏希の予想外の言葉に高宮はまた驚きつつも


「え・・あ、そーじゃないけど・・」



また


ヘンなもん作ってるし・・・




呆れてしまった。




「あたしちょっとコンビニで買ってくるから。」


夏希は財布を持って出かけようとした。



「あ、いいって、」


高宮は言ったが、



「ダメダメ。 やっぱミカンじゃ。 すぐ戻るから~。」


と、出て行ってしまった。



母と二人だけ残された。



実は


昼間からずうっとタイミングを見計らっていた。




夏希の母は自分たちの結婚のことは承知してくれているとは言え、


まだきちんと挨拶をしていない。



『あのセリフ』を言わなくては・・



しかし、どう切り出していいかわからない。



「仕事、忙しいの?」



夏希の母から言われて、



「えっ・・え~~~。 まあ。」


ドキっとしながら答えた。



「ホント大変だよねえ。 この前、難しい経済の雑誌に北都社長が載っててちょこっと読んだんだけど。 すっごいいろんなことやってる人だし、」


「・・はあ。」



「高宮さんも忙しいんだろうなあって。」



しばしの沈黙・・




「あのっ・・」



思い切って切り出そうとした時、



「あ、ちょっと待って。」



夏希の母は口をもぐもぐさせながら、バッグをゴソゴソしはじめた。



「は?」



母が出してきたのは


夏希の父の小さな遺影だった。



「・・・?」



高宮が固まっていると、



「言ってくれるんでしょ? 『例のセリフ』」


母は満面の笑みでニコーっと笑った。



なっ・・


遺影まで持ち出されるとは!


すっごいプレッシャー。


一人汗をかいてしまった。



「夏希が小さい頃からね、もし将来夏希が結婚することになって相手の人が挨拶なんかに来ちゃったら、おれは逃げるなあって。 お父さん言ってたから。」


母は思い出しておかしそうに笑った。

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