第76話 成長(2)
「あんこ、ただいまァ~。」
あんこはトイレもきちんとできるようになって、少し大きくなったので
夏希は広めのゲージに入れて留守番をさせてみた。
夏希が抱き上げると嬉しそうにクンクンと鳴いた。
「さびしかった? ごめんね、」
と、ほおずりをしてやった。
そこに携帯が鳴る。
「もしもし、夏希?」
母だった。
「なに?」
あんこを抱っこしながら座り込んだ。
「お米、送っておいたよ。 たぶん明日着くよ。」
「ああ、ありがと。」
「お正月は帰れるの?」
「うーん。 たぶん帰れるけど。 まだいつになるかわかんない、」
「高宮さんは?」
と言われて、ちょっとドキンとした。
「・・隆ちゃんもまだ予定聞いてないし。」
「そう。」
会話が途切れた。
「ねえ、お母さん。」
「え?」
あんこのしっぽをいじりながら
「お母さんは。 隆ちゃんのこと、どう思う?」
照れくさかったけど
正直な質問をした。
「はあ?」
聞き返されるとさらに恥ずかしくなる。
「だから! お母さんはさ、隆ちゃんのことどう思う?」
「どうって。いい人じゃない。 どう考えても、いい人すぎるよ。」
あっさりと
言ってくれた。
「いい人、だけ?」
「あんたみたいなわけのわかんない子の面倒みてくれるなんて。 奇特な人だよ。 ほんっと運がいいよね。」
「なに、それ・・」
「だって、ホントにあんたのことを想ってくれてるもん、」
最後に付け加えたその言葉に
グっときた。
「・・きちんと隆ちゃんのお父さんとお母さんに会って欲しいって言われて。」
と夏希が言うと、
「えっ!」
母はさすがに驚いた。
「え? なに? それって。 ひょっとして・・結婚、とか?」
「それはぜんっぜんまだだと思うけど! でも隆ちゃんはあんなに離れたがってた両親にあたしをきちんと紹介したいって。 それがね、すっごい・・意味があるかなあって。 あたしはそんなに真剣に隆ちゃんとのことを考えてたかなって。」
「そう・・」
「あたしは今しかぜんぜん見えてなくて。 この先とか考えられなくって。 だけど隆ちゃんはずっとずっと先のことまで見ているって。 そんなカンタンなこと。 全然気づかなかった・・」
母は
このどこまでも幼い娘の戸惑いが
手に取るようにわかってしまった。
「どうやったら・・一生一緒にいていい人かどうか・・わかるの?」
子供みたいな質問をして。
「好きなだけじゃあ・・ダメなの?」
黙って聞いていた母は
「あんたは。 高宮さんのことを何があっても守っていけるの・・?」
とポツリと言った。
「え・・」
「もう・・ついてくだけじゃダメなんだよ。 面倒見られてばっかりじゃあ、ダメなんだよ。 高宮さんは社長さんの秘書なんかして。 責任ある仕事して。 家の事だって。 辛いこともたくさんあると思う。 だけどもし、あんたがね、高宮さんのためになれるって思えるのなら。 それは『ホント』だと思う、」
あたしは
隆ちゃんのために
なれる?
「好きだとか、愛してるとか。 そういう気持ちは正直言っていつかは冷める。 だけど・・信じられる気持ちはたぶんずっと変わらないから。」
気がついたら
あんこを抱いた手の上に涙が零れ落ちていた。
「普通に見たらね。 あんたと高宮さんなんて不釣合いだよ。 どう見ても。 だけど、もうあんたたちしかわからない絆とかそういうのがきっとあるから。 あんたが高宮さんと一緒に生きたいって言うのなら。 あたしは反対しない。」
涙が止まらなかった。
「ウン・・」
それだけ
やっと言えた。
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