第63話 暗雲(1)
「あ、お帰り~。」
真緒たちが戻ってくると、下に降りてきていた南と会った。
「ただいま。 あ~、あそこのイタリアン美味しかったな~。」
真緒はバッグをソファに置いた。
「まったく一人でワインばかばか飲んで。 あたし先にお風呂入るわね、」
ゆかりは部屋に引っ込んだ。
「イタリアン行ったの?」
南が聞くと、
「ウン。 今日、高宮さんとイベント行って。 その帰り。」
真緒は上着を脱いだ。
「・・ふうん、」
「ほんと。 高宮さんあたしの秘書になってくれないかな~ってくらい。 すごいよね。 どんな人ともどんな場面でも。 ちゃーんと対応できて。 頭の回転も速いし。 世間話から世界情勢の話までできるし。 パリに行った時も。 お父さんの方が高宮さんの話にうなずいちゃってるんだから。 びっくりした、」
真緒は笑った。
あれ?
南は真緒の話に
『違和感』
を覚えた。
それは何だかうまく言葉にできない。
「ああいう人がウチにいてくれたら安心だよね、」
ウチって
会社のことかな?
基本的な疑問も沸いてしまった。
「南ちゃんは高宮さんと仲いいの?」
と言われて
「え? あ~~。 まあ。 飲みにいったりとか・・いろいろ、」
「飲みにってあの人飲まないでしょ? ほんとダメなのかなあ・・」
「まあ・・いろいろあったみたい。」
南はそれだけ答えた。
「あ~あ、あたしも疲れたな~。 お母さんにお風呂先入られたし~。 あの人長湯だから、」
真緒もブツブツ言いながら自室へと戻ってしまった。
高宮は夏希のところに寄ろうと思ったが、何だか疲れていたので自分の家に戻ってしまった。
すぐにベッドに大の字になってしまった。
明日はまた
直行で社長と埼玉か。
一日戻れそうもないな。
今日も結局1日つぶれちゃったし。
夏希に悪いことしちゃったなァ。
おれが買ったとはいえ
あんこのことも
ほぼ夏希に任せきりだし。
いろんなことを考えているうちにいつの間にかそのまま眠ってしまった。
「あ、八神さん。 おはよーございまーす!」
夏希は元気にデスクの掃除をしていた。
「おはよ、」
ちょっとドキっとした。
「八神さんのこの書類箱からおせんべがでてきましたよ~。 また隠しちゃって、」
おかしそうに笑った。
「食っていいよ、」
「え~? めちゃくちゃ前のじゃないですかあ? コレ。 シケってそう、」
彼女はいつものように元気いっぱいだった。
昨日のこと
なんでもないことなんだろうか。
それとも
知らないのだろうか。
と思っていると、
「あ、加瀬ちゃん。 おはよー、」
真緒がやってきたので、またもドキンとした。
「おはようございます、」
「ねえねえ。 この書類さあ、先に総務でハンコもらわないとダメなの?」
と夏希に書類を差し出した。
「ええっと。 これは~。 事業部の方だからあ。 先に斯波さんにハンコもらってから総務だったと思います。 斯波さん、午前中外出なんであたし預かってハンコもらっておきます。」
「ほんと? ごめんね。 ありがと。 あ、そーいえばさあ。 この前言ってたインド料理のお店。 今日のお昼に行ってみない? なんか食べたくなっちゃった、」
「あ、はい。 けっこう辛いですよ~、」
「辛いの大好きだもん。 大丈夫!」
談笑する二人の姿を見て
八神は自分が悩んでいるのがバカバカしくなってきた。
ほんっと
いいのかなァ。
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