第59話 第二の事件(1)

「今度の日曜。 久しぶりに休めそうだから。 近場でどこか行こうか。」


高宮は夏希に電話をした。


「え? ほんと~? お休みの日にお休みなんて久しぶりだね!」


嬉しそうに夏希は言った。


「あ・・でも。 あんこはどーしよう、」


「あそうか。 ショップに頼んでみようか・・」


「たぶん日曜日。 栗栖さんもお休みだと思うから、栗栖さんにちょっとお願いしてみようか、」


と夏希が言い出した。


「え? 栗栖さんに? いいの?」


「昨日もねえ、ウチに来て。 あんこのことすっごいカワイイって抱っこしてくれて。栗栖さんもワンコが好きみたい。」


「そっかあ。 じゃあ・・お願いして。」


「うん!」




昼間のデートは本当に数えるくらいしかなかった。


休みが合わずに何ヶ月も出かけることなどなかった。



「う・・バランスが・・」


夏希は社食で昼食をとろうとしたが、片手でトレイがうまくもてない。


するとヨコからスッと手が出て彼女のトレイを持っていく。



「八神さん、」


「おまえこれひっくり返したら大惨事だぞ。 うどんだし。」


いつものように憎たらしいことを言うが、やることは優しくて夏希はクスっと笑う。


「ありがとうございます、」


そして、八神のトレイに乗っているのも同じきつねうどんだったのを見て、


「アハハ、まだ月初なのにもう『きつねうどん』ですかあ?」


と笑った。


「ほんっと! ローンが大変なんだから! 好きなマンガも我慢して頑張ってんのに・・」


ため息をついてテーブルに二人分のトレイを置いた。




「は? 今度の日曜?」


「うん。 その劇場のこけら落としの式典に出て欲しいって。 お父さん、急にホテルのほうの仕事で出かけなくちゃならないんですって。 真太郎は名古屋だし。 あたしに行ってくれって言うんだけど、まだ不安だし。 ね、お願い。」


真緒はお願いポーズを高宮にした。


「お・・お願いって・・」


高宮は困ってしまった。


「いちおう想宝関係の劇場だから。 あたし、またトンチンカンなことしちゃったら大変だし。 仕事関係の人も紹介してほしいかなって・・」



『仕事』と『彼女』を


てんびんにかけることになってしまったが。


実際


真緒一人でそういう場に行かせるのは非常に不安だった。


社長の娘と言っても


あまりに抜けているし。


ヘンな評判が立ったらエライことだし。


高宮は大いに悩んだ。



暗い気持ちで事業部に行くが


もぬけの殻だった。


食事かな?


彼女のことだから


社食かも・・


高宮は勘を働かせて社食に行く。



「って、え~? マジっすかあ?」


「ほんとほんと。 もーおれ、おかしくってさあ・・」


もうとっくにゴハンを終えていたのだが、夏希と八神は話が盛り上がってしまいそのまま談笑していた。


高宮はそこに入ろうとしてすぐに入口で二人の姿を見つけてしまった。




なんだか


入っていけない雰囲気で。


足が止まってしまった。




すると夏希が高宮に気づいた。


「あ、隆ちゃん。」



ハッとして


「ちょっと・・いい?」


高宮は彼女を八神から離すように手招きをした。



「・・ごめん。 今度の日曜・・仕事になっちゃって、」


なんと切り出そうと迷ったが、結局そう言ってしまう。


「え、」


夏希は小さい声でそう言った。


「赤坂に新しくできる劇場のこけら落としのイベントに行くことになって・・。ごめん、ほんっと! おれから言っておいて!」


もう、拝み倒した。


夏希はすぐに


「え、しょーがないよ・・。 仕事だもん。 きっとまたお休みあるし、」


と大きな声で明るく言った。


「夏希、」


「ほんと隆ちゃん、お休みもなくて大変。 あんこはあたしがちゃんと預かるから。」


全く気にしてないように言った。



声でけーから。


聞こえちゃうし・・。



八神はその様子を耳だけダンボにして二人の会話を聞いていた。


明るく笑顔の夏希が


かわいそうで。


八神は胸がちくんと痛んだ。



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