第56話 愛されて(1)

「だっ・・だけど! わかってないのは彼女のほうで。 かわいそうなのはおれだっ!」


高宮の心の叫びともとれるその言葉に


「・・・・」


押せ押せだった八神のほうがヨロけた。


「きちんと彼女が精神的に大人になるのを待っていたいって思う反面、もううまいこと言って、騙してでも結婚したほうがいいんじゃないか、とか思ったりもしました。 おれはずっと・・ずっと夏希と一緒にいたいのに、」



泣きそう・・



八神は冷静に高宮を見てしまった。



「おれが騙してるなんて! 心外だっ!」



もう


頭の上から湯気が噴出しているかのように、高宮は怒り


資料室を出て行ってしまった。



なんだ


アレ・・。


予想外の彼の反応に八神は固まった。





くっそ~~!


みんなして!


おれが悪い男みたいに!


ほんっと


かわいそうなのは・・おれだ。





高宮はいったい何に怒っているのか


自分でもよくわからなくなっていた。



7時ごろ社を出ようとすると


外出から戻ってきた志藤と萌香に遭遇した。


「あれ? 今帰り?」


と言われて、


「はあ・・」




本当は


彼女からもう家に帰っていいと言われて、非常にやるせない気持ちではあった。



志藤は高宮の顔をジーっと見た。


「な・・なんですか?」


その視線を感じて思わず身を引いた。


「なあ。 メシ。行かない? たまにはさあ、栗栖に美味しい食事でもおごってやりたいんやけど。 何かとうるさいやん? おれなんかと二人で行くと、」


志藤は笑った。


「ほ、本部長・・」


萌香は戸惑いながら言う。


「だから。 おまえにカムフラージュになってもらって。・・3人で行かない?」



その笑顔に


またも、ホロっときてしまいそうだった。



いつもスカしてるくせに。


なんかあると


すぐに顔に出る。


ほんまにわかりやすいったら・・



志藤はブスっとして目の前に座る高宮を見た。


「で、なに?」


志藤はタバコを取り出しながら徐に訊いた。


「え、」


「なんかしらんけど。 溜まってるもんあるなら言ってみたら?」


ドキンとした。



なんでこの人は


こういうことに異常に鋭いんだろうか。



それでも高宮はプライドが邪魔をしてなかなか話すことができない。


しかし


どこかで誰かに自分の気持ちを聴いて欲しい気持ちもあった。





「あ? 八神?」


意外な人物の話に志藤と萌香は少し顔を見合わせた。


「なんなんスか? あの人。 んっとに、何の権利があってそこまで言うんだって・・」


高宮は風穴が開くと一気に彼への不満をぶつける。


「八神さんて結構加瀬さんのこと好きですよね・・」


萌香はボソっとそう言ってしまい、


「え、そうなの!?」


志藤は驚いた。


「い、いえ・・そういうヘンな意味じゃなくて。 あの二人ってなんていうか、似てるトコあるじゃないですか? 文句言いながらもすっごく話をしていると楽しそうって言うか。 八神さん、加瀬さんが交通事故遭ったって聞いたとき、けっこう心配してたみたいだし。」


「なんか斯波さんも・・妙な気を遣ってくれたりするし、」


と言われて、今度は萌香が


「はあ?」


と意外な顔をした。


「なんでみんな彼女に構うんですかね? おれはそこが知りたい!」



飲んでもいないのに


高宮はクダを巻くようにそう言った。

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