第55話 情(3)

「ねえねえ、高宮さーん。 この資料ってドコにあるんですかあ?」


真緒が高宮に言った。


「これは。 ええっと資料室の、どの辺だったかな。」


「高いトコ? 取ってくれる?」


「脚立があるでしょう。 自分で取りなさいよ。」


「いいじゃない。 取ってくれるくらい・・。 Hurry up! Hurry up!」


真緒は高宮の腕を取って引っ張っていく。




「この間さあ、おもしろいもの売ってるアンティークショップ見つけたの、」


「ほんっとヘンなもん好きだよね、」


笑いながら会話をして、資料室に入ってきたところに八神がいた。


二人はちょっと会釈をして、資料を探す。




「そういえばさあ、この前ジャズが好きとか言ってたじゃない?」


真緒は探しながら言った。


「うん・・けっこう。」


「あたしも好き! アメリカに留学してた時さあ、けっこうハマって。 家にけっこうレアもんのCDとかあるんだよ。 今度貸してあげる、」


「おれも結構持ってるよ。 100枚くらいは・・」


楽しそうに会話をする二人。



八神はなんだかイライラした。



「あ、あった! これだっ!」


真緒はファイルを手にして言った。


「んじゃあ、早くそれ。 社長の所に持っていって。」


「はーい、」


真緒は先に出て行った。



高宮も脚立を片付けて出て行こうとすると、


「たのしそーだな~、」


八神は嫌味っぽくそう言った。


「はあ?」


「ほんっとおまえってさあ・・あんま人としゃべったりしてるの見たことないのに。 お嬢とはあんなに楽しそうに話すんだあ、」


「何が言いたいんですか?」


高宮はむっとした。



『隆ちゃんが一緒にあんこを飼おうって言ってくれたから。』


夏希の無邪気な笑顔を思い出す。



なんか


泣けてくる。


加瀬が不憫で。



「ほんっとおれ。 おまえみたいなエリートで金もあって顔もいいヤツがさあ。 なんで加瀬なんかとつきあってんだろーってわかんなかった。 あいつ、異星人だし。 バカだし。 おれのことなんかセンパイだなんて思ってなくてムカつくこと平気で言うし。」


八神は資料を探しながら言った。



「だけど。 今は・・あいつのかわいさがわかる。」


堂々とそう言って高宮を見た。



「はあ??」


「おまえってやっぱ加瀬とは違う世界に生きる人間だよ。」


「な・・なんであなたにそんなことを言われないといけないんですか?」


高宮は腹が立って声が思わず震えた。


「なんでさあ。 お嬢に加瀬とつきあってること言わないの?」



なんだか


その言葉がグサっと突き刺さった。



「な・・なんでって。 訊かれてもないのに言うなんて、おかしいじゃないですか・・」


少し動揺しながら言う。



加瀬とおんなじこと


言って。


社長がお嬢とコイツをくっつけようとしているんじゃないかって社内の噂のせいでもないんだろうけど。


お嬢はもう高宮に頼りっぱなしで。


何かって言うと、くっついて仕事教えてもらってる。




「かわいそうじゃねーか。」


「え・・」


「加瀬が!」



すんごい目で睨まれた。



高宮はカチンときて


「あなたは夏希に関して何か言う資格でもあるんですか? 結婚して子供までいるし。 それとも夏希に対して後輩以上の気持ちを抱いてるとでも言うんですか?」


逆襲した。



八神は


見た目にもわかるくらい動揺していた。



「そんなの! わっかんねえ! なんっかしらねーけどさあ。 加瀬って放っておけないってゆーか。 面倒見てやんないと・・のたれ死ぬんじゃないかって・・思ったり。 バカだから・・おまえみたいな頭のいいやつに騙されるんじゃないかとか!」


「はあ????」


心外もいいところだった。


「お、おれが夏希を騙す~~?」


声が裏返りそうだった。


「うまいこと言って言いくるめて。 も~~、なんっかアイツ、すんげえ不憫なんだよ~、」


八神は思わず本音を言ってしまった。


「不憫って・・。 おれは! ほんっとできることなら今すぐにでも彼女と結婚したいって思ってるのに!」


高宮は思わず声を荒げた。



「はあ?」



それには八神が驚いた。

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