第54話 情(2)

「でも。 隆ちゃんのこと信じてるから。」



夏希は明るく言った。


「え・・」



八神は顔を上げた。




「隆ちゃんが一緒にあんこを飼おうって言ってくれたから、」



まるで


子供のような


そんな言い方で。


笑顔で。



「隆ちゃんとあんこと3人でいるとほんっとに楽しくて。 一緒にトイレ教えたり。 おなかの上に乗せて遊んだり。」



そんなちっさいことが


嬉しいんだなァ。



八神はつくづく思ってしまった。



「あたしのこともすっごい面倒みてくれて。 申し訳ないくらい。 あたしは隆ちゃんになんもしてないのに。 ほんっと悪いなあって、」



なんか


男を信じて


捨てられる


見本みてーな女。


恋愛っていえるようなもん。


アイツ以外としたことないくせに。




八神の頭の中では


高宮が


もんのすごい


悪い男のようなイメージがわきあがってしまっていた。




「あ、ねえねえ。 八神さん。 香水と~、トワレってどーちがうんですかあ?」


夏希は思いついた疑問を関係ないところでぶつけてきた。


考え事をしていた八神は


「ハア? トイレ?」


と聞き返し、


「あ、やっぱいいです。」


夏希は訊いてもムダだと思い、すぐにその疑問を引っ込めた。



そのころ。



「なに~? 鬼のようにタバコ吸っちゃってさ~、」


高宮が休憩室で新聞を読んでいると、南がやってきた。


「あ?」


機嫌悪そうに顔を上げた。


「加瀬のヒモ生活してたんやって~?」


とニヤつかれて、



「八神さんですね! ほんっとにもうおしゃべりだなっ! 別にヒモしてたわけじゃありません! おれのが全然生活力あるのに!」


ムキになって言い返した。



「も、夫婦って感じやなあ、」


「彼女が望んでいませんよ、」


ため息をついて肘をつきながら新聞を読んだ。


「は?」


「ちゃんと自分の家、帰ったほうがいいですよ。 なんて言われちゃったし。」


「そっかあ・・」


「彼女から会いたいとか・・ずっと一緒にいたいとか。 ほんっと言われたことないし。」


「でもさあ。 ほら、子供だから。 加瀬は。 イラつくこともあるやろけど。 そこは大人にならないと。」


南は笑って高宮の背中を叩いた。


「それにしても。 わからなさすぎですよ。 おれの目の前で八神さんとランチに行く約束して大喜びしたり。」


「はあ?」


「ゆうべ八神さんが来たときに! おれの目の前で!」


高宮はだんだんと腹立たしくなってきた。


「坦々麺くらいでつられて! ほんっと食べ物のことになると見境ないっちゅーか!」


「まあ。 でも・・それが加瀬やしなあ・・」


「それを言ったらミモフタもないでしょーが!」


もう、どこに当たっていいのかもわからなくなってきた。



南にひとしきり感情をぶつけた後、休憩室を出ようとすると斯波と出くわした。


「あ・・、ども。」


別に悪いことをしていないのに


いつもこの人と会うとドキっとするのは何故だろう。


「まだ休ませた方がよかったんじゃないの、」


斯波はボソっと高宮に言った。


「え・・」


「なんっか顔にも擦り傷あるし。 ギブスの他にも包帯してるし。」


「体は痛むようなんですが・・本人が行くって言うんで、」


目をそらしつつ言った。


「あ~~~、そ。」


沈黙が続く。


何が言いたいんだろうか。


高宮は斯波の顔を思わず覗き込んでしまった。


「おまえも・・忙しいだろうし。 なんなら・・萌に言ってメシの面倒くらいはみさせるから、」


そう言われて、


「はあ、」


曖昧な返事をすると、スーッと行ってしまった。



八神さんといい


斯波さんといい


彼女のことを放っておかないなァ。



それはどーゆー意味と考えたらいいんだ?


おれは!

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