第53話 情(1)

それはシャネルのNo.19のミニトワレだった。


「加瀬ちゃんにはいろいろ教えてもらったりお世話になってるから。 これっていい香りだよねえって高宮さんと話してたの、」


彼のお土産もNo.19の香水だった。



って


香水とトワレの違いもよくわかんないけど~~~。


一緒に


買いに行ったんだ・・


夏希は一気に気分がサゲ状態になってしまった。



「あ・・ありがとうございます。 こんな高級品、」


顔をひきつらせながら夏希は真緒に礼を言った。


「そんなの! ちっさいし! でも小さいのが逆にカワイイでしょ? この瓶が気に入っちゃった、」


本当に30とは思えないほどきゃぴきゃぴした雰囲気の彼女を見ていると


つられて笑顔になってしまう。


「加瀬ちゃんはさあ、背は大きいけど、すっごくスタイルもいいし。 顔もちっさいし。 うらやましーって。 もっとおしゃれすればすっごいかわいくなるのに、」


真緒はニッコリ笑う。


「え~~~、照れる。 そんなん言ってくれるの真緒さんだけです・・」


夏希は


少し複雑な気持ちでそう言った。



約束どおり


八神は夏希に坦々麺をおごってやった。


「あ~~、おいし~~!! このゴマ風味が最高・・」


胃袋にしみまくっていた。


「おまえは幸せだなァ、」


彼女の食べっぷりを見て八神はため息をつく。


「あれ? ギョーザ食べないんですか? あたし、食べていいですか?」


彼の目の前のギョーザに了解を得る前に箸をつける。


「も・・箸でつかんでんじゃん!!」


とつっこむと、


「あ、ほんとだ。 アハハ。」


と笑った。




ほんっと


食うことばっかで。


アホだし。


だけど



コイツが交通事故に遭ったって


最初に聞いたとき


もんのすごく動揺した。


身体が震えてしまった。


デカいけど


まあ・・


よく見ると


カワイイよな。


スタイルもすっごくいいし。


脚も


運動していたわりには


まっすぐでキレイだし。




「あのまんま。 一緒に棲んじゃったりするの?」


なんとなく聞いてしまった。


「え?」


ギョーザを思いっきり頬張ったまま返事をされ、アホらしくなるが。


「棲みませんよ。 隆ちゃん、今日は帰るって言ってたし。 ほら、ずっと家空けてると危ないでしょ? オートロックとはいえ。」


「まあ・・」


「前に。 1週間だけ一緒に棲んだことあるんです。」


夏希は笑った。


「はあ?」


「でも。 1週間しかもたなかった。 あたしってほんっとダメだな~~って。 結局、隆ちゃんに迷惑をかけちゃって。 今までみたく好きなときに行ったり来たりがいいよねって言って。 今はあんこがいるから、隆ちゃんが出張の時以外は・・毎日のように会ったりしてるけど。」


と笑った。


「ふうん・・」


八神はつまらなそうにグラスの中の水を飲んだ。


「・・お嬢とのこととか・・気にならないの?」




別にイジワルをするわけじゃないけれど


それも聞いてしまった。


夏希はカタっと箸を置いた。


「気になります。」



そして八神の顔を真正面からじっと見てそう言った。


「加瀬・・」


「ほんと仕事でいつも一緒だし。 隆ちゃん、社長の家に行くことも多いから。 前も泊まったり・・」


その後、うつむいた。


「泊まる~?」


「もちろん、社長の家ですから。 いいんですけど。」


「お嬢はおまえのこと、知ってるの?」


「・・わかんない。 でも・・たぶん知らないと思います、」


さっきのトワレのことを思い出した。


「高宮、言わないの?」


「まあ、別に。 訊かれなかったら言うことでもないけど・・」


夏希も水を飲んだ。



あれっ・・


なんだ??


また


すんげえ


腹立たしいんですけど??



八神は思わず自分のおなかを押さえた。

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