第51話 嫉妬(2)
この男二人の間に漂う微妙な空気を夏希だけが察していなかった。
高宮は悶々とするうちに
またも、あの『地下室事件』のことを思い出してしまった。
・・夏希の胸に触りやがって。
おれ以外の男に触られるなんて!!
ほんっと
絶対ゆるせねー!!
「ねー、八神さん。 見て~。 レックスの斉藤さんからお見舞いのメール来たんですけど~。 すんごいおもしろいスタンプなの!」
夏希は無邪気に携帯を彼に見せた。
「え? どれ?」
八神は夏希にくっつくようにソレを見た。
「なんだコレ。 すっげー! こんなスタンプ見たことね~。 さっすが斉藤さん。」
「でしょー?」
必要以上にくっつきながら携帯を見る二人に
「早く帰ったらどうですか?」
高宮は耐え切れずに言ってしまった。
「はあ?」
八神は高宮をジロっと睨む。
「かわいい奥さんと娘が待ってるんでしょ。 さっさと帰ったらどーですか?」
あからさまに言う高宮に
「隆ちゃん、なに怒ってるの?」
一番、空気の読めていない夏希が言った。
「ほんと。 何怒ってるの?」
八神もマネをして言ったので、高宮はブチ切れて、
「もう10時ですよ?? こんな時間に! 女の子の一人暮らしのトコ訪ねて来るってどーゆー神経なんですか!?」
バシっとテーブルを叩いた。
「どーしてっか気になっただけだろ。 いちおう交通事故だしって・・」
ったく、ダンナ気取りかよ!
八神も彼を忌々しそうに見た。
「んじゃ、明日。 待ってるから。 ちゃんと来いよ。」
八神はそう言って立ち上がる。
「はい、」
「『睡蓮』の坦々麺おごってやろっか、」
「え! ほんとに? やった! 八神さんが奢ってくれるなんてめずらし~~!」
夏希は嬉しくてバンザイまでしてしまった。
ランチの約束までして!
高宮はもう腹が立って腹が立って仕方がなかった。
たくさんの果物と野菜を手に八神はやっと帰って行った。
やっと帰った・・。
高宮はほっとしていた。
ところが。
「隆ちゃんも明日はもう帰ってもいいよ、」
夏希に言われて、
「えっ・・」
高宮は少し驚いたように彼女を見た。
「帰っていいよって・・いちゃダメだった・・?」
「そうじゃなくて。 パリから帰ってきてずうっとここだったから。 ちゃんと家に帰ったほうがいいんじゃないかなーって、」
そんなの
どうでもいいのに。
高宮は大きなため息をついた。
夏希は先にベッドに入って眠っていた。
高宮はいつもはその下に布団を敷いて寝ていたのだが、彼女の寝顔を見ているうちに何だかやりきれないものを感じてしまった。
そっと夏希のベッドに入っていく。
「・・ん・・?」
少し目を覚まして寝ぼけたように言った。
何も言わずに彼女を抱きしめ、キスをした。
「・・りゅ・・うちゃん?」
高宮は何も言わずに夏希の身体をまさぐった。
「んっ・・」
身体を押さえつけられると、まだ痛んだが
彼があまりに貪欲に抱きしめてくるので我慢してしまった。
ほんっと
わかってないんだから。
男心が。
楽しそうに目を合わせて笑いあっていた八神と夏希のことを思うと
言いようのない苛立ちを覚えて
みっともないってわかっていても
自分の昂まる気持ちを抑えることができなかった。
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