第49話 休日(3)

「ねえ、こんなにのんびりしてていいの?」


ゆかりは言った。


「もう真太郎が全部わかっているから。 こうやって少しずつあいつに渡していかないと、」


北都は海の表面のきらめく光を見た。


「そうねえ・・真太郎も・・もう33? 4? なんかわかんなくなっちゃった、」


ゆかりは笑う。


「あと5年かなあ・・」


「え?」


「そろそろ後進に譲る時が来たかな。」


北都はふっと微笑む。


「真太郎は大丈夫かしら。 しっかりしていて頭もいいけれど。 お人よしだし、」


「大丈夫。 真太郎を助けてくれる人間はたくさんいるから。」


「まあ・・真尋も何とかなりそうだし。 せっかく全員片付いたと思ったのに。 また一人心配しないといけないわね、」


「真緒はもう大人だから。 これからのことは自分で何とかするだろう、」


優しい瞳で彼女を見つめた。




高宮は迷いながらも、やっぱり夏希のことが心配で会社を休んでしまった。


「あたしは大丈夫なのに、」


夏希も申し訳なくなってきた。


「ううん。 社長もいいって言ってくださってるし。 今日だけ、」



なんか


エサやらないと


死んじゃいそうなんだよな・・



夏希の顔を見るとそんな風に思ってしまう。



「なんか。 今日だけって言葉。 いいよね、」


夏希はにこーっと微笑んだ。


「ギョーザ。 食べたくなっちゃったな~~。」



また食べ物のことを考えている。



「ギョーザ??」



「あんこも食べたいよねっ! ウン!」


あんこに腹話術をしながら笑った。


「バカ・・」


高宮は理屈ぬきに笑ってしまった。



夕方ごろ


「あ~~~、頭がかゆいっ!」


夏希は絶叫した。


「今日はなんとかシャワーくらいは浴びれそうだけど。・・頭は大変そうだな、」


高宮は同情した。


「もう、どーなってもいいから頭洗う~~、」


「美容院でシャンプーしてもらったら?」


「そんなの、お金がもったいないよ、」


「おれが出すから。」


と言われて。



「ううん。 そんなカンタンにお金出さないで、」


夏希はニッコリ笑った。


「え?」


「あたし、甘えちゃうから。」


「甘えていいんだよ・・」


「そういう甘え方はしたくないから、」


「夏希、」


「もったいないって思いながら生活したいの。 東京に出てきて、ほんっと生活が大変だったころのこと忘れたくないし。  ってゆーか、やっぱ美容院より食べ物のがいいかなって思ったりもするしね、」


夏希はテレながら笑った。



普通の25歳の女の子は


どっちもしたいって思うんだよ



高宮はそんな夏希がすごくいとおしく思えた。



「んじゃあ。 アタマだけ先に洗ってあげるよ。 風呂場で。」


高宮はニッコリと微笑んだ。


「え、いいよ。 そんな、」


いちおう遠慮をしたが、


「一人じゃ無理だよ。 今日は夏希の看病するために休んだんだから、」


と、彼女の頭を撫でた。


「み・・水着着たほうがいいかな?」


またも真面目におかしなことを言う夏希に笑いのドツボにはまってしまった。





「加瀬さん、大丈夫かしら。 様子は見に行ってないけど、」


萌香は斯波に言う。


「高宮が来てるんだろ? 大丈夫なんじゃないの?」


書き物をしながらボソっと言った。


「でも。 何か食べ物とか持っていってあげたほうがいいかしら・・。」


萌香はまだ心配そうに言うと、


「いいから。 ほっとけ。 行かなくていい、」


少し強めの口調で言ったので、萌香は少し驚いた。



彼がいったい


どんな気持ちなのか。


さすがの萌香も図りかねてしまった。




「う~~、気持ちい~~。」


夏希は高宮に髪を洗ってもらい、椅子に腰掛けドライヤーで乾かしてもらっていた。


「髪の毛短くしておいてよかったァ~。 あんこもシャンプーしたほうがいいかなあ、」


と、あんこを抱っこして言った。


「あんこはまだ小さいから。 お風呂なんか入れたら風邪引いちゃうよ、」



高宮はふざけてあんこにドライヤーをふわっとかけると、顔をくしゃっとさせた。


それがかわいくて、何度もやってみた。



「もー、かわいそうだよ・・」


夏希はあんこをギブスの手で庇って笑った。



なんっかもう


すんごい


幸せ・・。



高宮はどっぷりと浸っていた。


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