第44話 ふたりの生活(1)

「かっ・・顔も洗えない・・」


夏希は慣れないギプスに四苦八苦していた。


「ちょっと待ってて。」


高宮はタオルを持って来て熱いお湯で絞った。


そして、おもむろに夏希の顔を思いっきり拭き始めた。



「いっ・・!! ちょっと! か、顔にも擦り傷があって・・」


「え、ほんと? ごめんごめん、」


と笑う。


「いった~~い。 ほら・・」


と頬骨辺りの傷を見せる。


「あ~~、トイレに行くのも大変・・」


夏希はトイレに立った。




その時彼女の携帯が鳴る。


ウインドウに


『志藤本部長』と出たので高宮は電話に出た。



「はい・・」


「え、なに、・・高宮?」


「そうです、」


「あそっか。 おまえ帰ってきてたんか、」


「ちょうど成田に着いた頃。 南さんから電話を貰って・・」


「加瀬、どうなの。 いちおう斯波からは聞いたけど、」


「まあ、左手の手首にヒビが入っている以外は大丈夫そうです、」


「そっか。 ギブスなんやろ?」


「ええ、慣れないようで生活するのも不自由そうです。」


「念のために明日は休むように言っておいて。 いちおう車とぶつかったんやからな、」


「はあ、」


「相手の車。 保険入ってたみたいやから、治療費等はなんとかなると思う。 また電話がかかってくるかもしれへんけど、あいつじゃわからへんやろから。 おまえが色々手続きしたって、」


「それは、もちろん・・。」


「ま、大したことなくてよかったやん、」


「はい。 ほんとに。 心臓が止まるかと思いました・・」


高宮はふうっと息をついた。



「志藤さんから電話あったよ。 勝手に出ちゃった。」


トイレから出てきた夏希に言う。


「え? 本部長?」


「明日、休めって。」


「え、全然平気なのに。」


「いちおう頭も打ってるんだからさ。 休ませてもらいなさいよ、」


「でも~、」


「おれも明日は社長が休みだから、一緒に休ませてもらうから。」


「え、でも・・」


「面倒、みたいから。」


高宮はふっと笑った。


「あたしって人に迷惑をかけて生きてますよねえ・・」


夏希は少し落ち込んだ。


「ま・・それがきみだから。」


高宮は優しく言った。




「えっ! 加瀬ちゃん交通事故に遭っちゃったの!?」


翌朝、出勤してきた真緒は話を聞いて驚いた。


「まあたいしたことないみたいなんだけどね・・」


八神は言った。


「車に轢かれちゃったんでしょ? 大丈夫なの?」


「元気は元気みたいやで。 ちょっと今日は他の雑用頼むかもしれへんけど。 お嬢、頑張ってな、」


志藤は彼女の肩を叩いた。



「もう11時だよ・・。 とりあえず起きたら?」


高宮はいつまでも寝ている夏希がなんだか心配になり、揺り起こした。


「え・・」


ボサボサの頭でむっくり起きたが、


「い・・たたたた・・」


と、左肩を抑えた。


「どしたの?」


「なんっか・・体中が痛い・・」


「え、大丈夫?」


「すんごい筋肉痛みたい。 けっこうダメージあったんだァ・・」


情けなくなった。


「ほら、」


起き上がるのにも手を貸してやる。


「足も、痛い・・」


「大丈夫かよ、」



何とか顔を洗って戻ってきた。


「あ、お母さんには言わないでね、」


夏希はやっとこさ顔を拭きながら言う。


「え・・」


「心配するし、」


「うん・・」




確かに交通事故だなんて言ったら、どれだけ心配するだろうか。


それに


おれがついてるし・・。


高宮はなんだか幸せな気分になって、ふふっと笑ってしまった。



「洗濯物は?」


「え・・いいよ・・。 洗濯なんか、」


夏希は恥ずかしそうに言った。


「なんか洗濯機の中、溜まってたけど?」


「それは・・今日やろうと思って・・」


「いいよ。 おれしとくし、」


「ちょ、ちょっと、隆ちゃん!」


夏希は彼の手を引っ張る。


「なに?」


「ほんっと、恥ずかしいから! あたしがやるから!」


「干すの大変だろ? いいよ、このくらい。」


とさっさと洗濯機のところに行ってしまった。

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