第35話 信じて(2)

お風呂から出た後に


そのトワレをつけてみた。



「ん、いい香り、」


高宮は彼女の首筋にキスをしながらそう言った。


「うん。 あたし・・匂いとかあんま気にしなかったけどすっごいいい香り、」


「匂いって・・」


ちょっと吹き出しそうになった。


「うれしい、」


夏希はつぶやいた。


「え、」


「あたしなんかのこと・・社長が考えててくれたなんて、」


本当の気持ちだった。




だいじに


だいじにしたい。


キスをたくさんして


身体中に。




柔らかい乳房に触れ


慈しむように。




彼女は


誰も


恨んだりなんかしない。


人の悪口とか


ゼッタイに言わないし。



素直に


人を見ることができる。



おれにはない


天賦の才能だ


そんな彼女が


大好きで。


もうつきあって2年くらいになるけど


初めて会った時と全く変わらずに。



変わったのはおれだ。


彼女といると


気持ちがすごく落ち着いて優しくなれる。


自分という人間を認めて欲しくて


肩で風きって。


誰にも負けないように生きてきたおれは


心になんの余裕もなかった。


だけど


彼女といるだけで


すごくすごく


優しくなれる






「ちゃんとさあ、ゴハン食べるんだよ? 戸締りもきちんとして。 あんこはミルクばっかりやっちゃダメだよ。 ペットフードの量を増やして・・」


高宮は出かける前にしつこいほど夏希にいろんな注意事項を述べた。


「あ~~~、いっぺんに言われると・・。メモしなくちゃ、」


「メモするほどのことでもないけど。 ほんと、窓の鍵、閉めるの忘れないように。 夏希はたまに開けっ放しでねることあるから・・ガスの元栓も!」


「はいはいはいはい・・」


まるでお母さんのように注意をされてしまった。


「紙に書いておくから。 貼っておくし、」


「まったく・・小学生に留守番させるみたいで心配だなァ、」


東京に戻ってきて、こんなに長い出張は初めてで。



もう


彼女のことが心配で心配でたまらなくなる。





「一生懸命帰って来たのに。 こんなに早くまたパリに行くことになるとは、」


真緒は飛行機の窓から雲の波間を見ながら少し笑った。


「そんなに深く考えないで。 それよりちゃんと仕事もしてよ、」


高宮は本を読みながら真緒に言う。


「パリに行ったときはさあ・・フランス語全然話せなくて。 でも、話せないと友達もできないし。 けっこう頑張って話せるようになったんだよ?」


「まあねえ。 おれもNYに行ったの、15ん時だったからな~。 もちろん英語もほとんど話せずに。 最初は授業さえまともに受けられなくて。 1年間くらい友達もできずに篭ってたなあ、」


高宮は思い出して言う。


「高宮さんてけっこう内向的なんだね、」


意外そうに言われて、


「え、どう見えるの?」


「交友関係も派手そうに見える、」


きっぱりと言われた。


「はあ?」


「女もとっかえひっかえそう、」


真緒はお菓子を食べながら、笑った。



「失礼な・・」


ちょっとムッとした。




真緒はふっと高宮のネクタイに注目した。


「おもしろい柄~、なにこれ?」


例の夏希に貰った『ゼンマイ』ネクタイだった。


「あ・・うん。 ゼンマイ・・」


恥ずかしそうに言うと、


「ゼンマイ~~? え~? すっごーい! こんな柄、あるんだ~。 なんか新しい!」


真緒はそれに食いついた。


「高宮さんてこういう感性の人なんだあ、」


と感心され、



「や、おれじゃなくて・・」


と口ごもると


「あ・・プレゼント? 彼女から?」


先回りして言われた。


「う・・うん、」


恥ずかしそうに頷いた。


「そっかあ、まだまだラブラブなんだね~~。 あたしなんか同い年なのに結婚して離婚もしちゃったしね、」


と、明るく笑う。


「自虐ギャグじゃん・・」


「自虐ギャグ? アハハっ! 早口言葉みたい!」


真緒はウケていた。



ほんっと


この子も変わってるよなあ・・・。



高宮はため息をついた。



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