第33話 切る(4)

「ってまた『お嬢』と一緒やろ? ええのん?」


志藤は笑って言った。


「そこはもう触れないで下さい。 仕事なんで・・」


高宮の声のトーンが落ちた。


「まった妙な噂がたってまうなあ、」


「嬉しいんですか?」


高宮はおもしろがる志藤を睨んだ。


「加瀬には言ったの?」


南に言われて、


「はあ。 でも普通に・・『あっそう』って感じで・・」


「加瀬・・社内でまことしやかに囁かれる『あの噂』知ってるんかな。」


志藤の言葉に



「たぶん知ってるよ、」


南は言った。



「え、」



高宮は彼女にそれを確かめたことはなかったので、ちょっとだけ驚いた。



「もう女子ロッカーだってその噂でもちきりだもん。 加瀬がいるときも。 いくら加瀬がニブくても・・聞こえてるって、」


南は生ビールを美味しそうにぐっと飲んだ。


「・・・」


高宮は黙ってしまった。



「でもね。 あたしにも萌ちゃんにも。 泣きついてこないの。 この前みたく。 仕事もフツーにしてるし。 だからあたしも余計なことは言わないけど。 加瀬、大人になったな~って、」


南は笑った。


「え、」


高宮は顔を上げた。


「一生懸命。 あんたのこと信じようって思ってるっていうか。 突然、髪の毛切ったりさあ。 やることカワイイっていうか、」


「ああ、そんでまたあんなアタマになってたの?」


志藤は言った。


「たぶんね~。 んで、最近の話題はもっぱらワンコだもん。 『あんこ』だっけ? あんたらの愛犬。」


「・・はあ、」


「あんこの話ばっかり。 やっぱり『子は鎹』やなあって。 犬で寂しさ紛らわせてるんやなーって。」



「グサグサくるようなこと言わないでください・・」


高宮は落ち込んだ。





彼女が髪を切った理由は


そんなとこにあったんだ。



もんのすごい自己反省をしてしまった。




「そんなに心配なら。 もう結婚すりゃいいのに、」


志藤はまたお気楽に言った。


「そんなカンタンに・・」


高宮は彼を恨めしそうに見た。


「でも今のまんまで結婚してもね。 加瀬は自分的にいろんなこと処理するのに精一杯で。 ダメだと思うよ。 ちょっとずつだけど大人になってきてるしね。 もちょっとかな、」


南が軽く言うと、


「もうちょっとですかね??」


高宮は意外にも真剣に食いついてきた。


「わ、わからへんけど、」


それにはおののいた。


「そのために犬まで飼ったのになあ、」


志藤に言われて、



「えっ!」


みるみるうちに高宮の顔が真っ赤になったので、二人は顔を見合わせて笑ってしまった。



「な~~、計算やろ~? ほんまわかりやす!」


南は志藤の腕を叩いた。


「け、計算???」


「だからあ。 高宮が犬買っちゃったのも。 加瀬の気を引くためだって!」


ドキンとした。


「一緒に犬飼うのって子供育てるのとおんなじやもん。 加瀬の気持ちが万が一高宮から離れそうになってもそのあんこがさあ・・いれば繋がれるっていうか。」



南に冷静に分析をされ


それがあまりに


自分の『計算』と


寸分違わなかったので


高宮は恥ずかしくて固まってしまった。




「た・・ただ。 彼女がこんなに仔犬に夢中になるとまでは・・思わなかったですけど、」


「ほんまに。 おまえの献身的な姿には涙が出る!」


志藤は高宮の背中を叩いた。


「も~~、ほら。 飲んじゃえば?」


南は彼に酒を勧めたが、


「いえ、それは。」


やっぱり高宮はそれを固辞した。



志藤はふっと微笑んで



「そやな。 おまえが酒、飲むときは。 結婚式の乾杯の時やな、」


と言った。



「えっ・・」


高宮は一瞬のうちにそれを想像してしまい、赤面した。


「あ~、そうだね~。 でもいつになるかわかんないね~。 カワイソ。」


南はアハハと笑い飛ばした。



ほんと


そういう日は


果たして来るのかなあ



高宮は未来に思いを馳せた。


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