第32話 切る(3)

嵐は過ぎ去ったように思えたが。


「は・・パリ、ですか?」


「ああ。 急に契約で行くことになって。 今度、ノースキャピタルホテルをパリに出すことになって。 急に決まったことなので忙しいんだが。 なんやかんやで打ち合わせもあるし1週間ほど行くことになった。 おまえも忙しいだろうが同行、頼む。」


高宮は北都から言われた。


「はい、」


うなずくと


「あたしもご一緒します、」


真緒がやってきた。



「えっ!!」


それには驚いた。


「まだまだ仕事のことはダメだけど、フランス語だけはいけるし。 役には立てるから。」


とニッコリ笑った。



社長と・・彼女と。


おれと3人の海外出張かよ・・


しかも1週間。



高宮は嫌な汗がどくどくと流れてきた。





「へー。 パリに? 1週間も大変だね~。」


夏希はあんこにごはんをあげながら言った。


「うん・・」



できれば


言いたくないが。


また


隠したりすると


彼女を不安にさせるし。



「あの・・さ。 社長とおれと・・真緒さんで行くことになったんだ、」



思い切ってカミングアウトした。



すると


一瞬背を向けていた夏希の背中がピクっと動いた気がした。





しばしの


静寂。





そのあと


夏希はくるっと振り向いて


「そーだよね。 真緒さん、フランス語ペラペラって言ってたし。 英語はしゃべれる人いてもフランス語話せる人なかなかいないしね、」


とニッコリ笑った。


「あ・・うん・・」


拍子抜けしてしまった。


「ねー、あんこさあ・・ちょっと大きくなったよね~~。前は手のひらに乗せられたのに。 今はちょっとはみ出しちゃう、」


夏希は笑顔でそう言った。


「ん、」


「あんこのことはあたしに任せて。 ちゃんとしとくから、」


「もうほとんど夏希の犬って感じだけどね、」


高宮は苦笑いをした。


「え~。 でも。 保健所に出した紙さあ・・『高宮あんこ』になってるし。 やっぱり隆ちゃんちのコだよ・・」


夏希は笑った。


「娘みてーだな、」


「ほんと~~。」




おれたちの。



ほんとはそう言いたかった。



彼女はおれのことを


好きで


一緒にいたいって言ってくれるけど


たぶん


結婚とかはちっとも考えてない。


それは


彼女と2年近くつきあってきて


言わなくてもわかる。



いろいろ不安になることもあるみたいだけど。


おれと一緒になりたいって


トコに結びついてないところが。



まだまだだなァって


思う。






「明後日からパリなんやって?」


残業していたら


またも南と志藤の二人につかまって、『新月』に連れてこられた。


「はあ・・。 ホテルのことなんですけど、」


高宮はウーロン茶を呑みながら言った。


「ほんまに。 お義父さんのめっちゃ頼りになる秘書やし。 よろしくね、」



南に甘えるように言われて


どっと疲れた。



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