第17話  弥生の上司

 弥生の上司・神薙 毅かんなぎ つよしは、神社庁配下の部署を統括して20年になる。


 彼にとって弥生は娘のような存在だった。

職場の部下に娘と思うのはどうかと自分でも思う。


 弥生は純粋無垢で巫女としての働き、神への接し方は申し分ない。

優秀すぎるくらいだ。

ただ、あまりに一般人と常識はかけはなれている。

無防備すぎて心配になるが、神様が守って下さっているから大丈夫だとは思う。


 そんな彼女に、気分転換にとタイとの親睦会を軽い気持ちで薦めた。

彼女は、親睦会のことを聞いたとき、数回・瞬きをして頭を傾げて数秒考えた。

そして、行きます、と、簡潔に言ったのだ。


 驚いた。 おそらく断るだろうと思っていた。

しかし、気分転換にはよいと思っていたのでタイへ送り出したのだが・・。


 まさか海外で御神託を受ける巫女がいるだろうか?

本当に弥生というの能力は計り知れない。

しかも迦楼羅天かるらてん様からの御神託である。


 御神託の神様と内容を聞き、冗談だろう?と、思わず言いそうになった。

そんなことを口に出したら、神様に対し不敬であり大変なことになる。


 御神託を受けたのだから、後は弥生に任せるしかない。

俺にできるのは、彼女が働きやすいようにするだけだ。

彼女が苦手とする人の説得という御神託、果たしてどのように遂行するのか楽しみでもあった。

そして、彼女なら御神託を実行できるという信頼はあった。

どのような報告が来るか楽しみだ。


 そう思ってニヤついていたら、部屋をノックされた。

 

 「入っていいぞ。」


 そう声をかけると巫女が入ってきた。

御神託が降りたという報告だ。

そして・・


 「なにを嫌らしくニヤついているんですか!」

 「え? ニヤついていた?」

 「ええ、ものすごく。」

 「そう?」

 「?・・・」

 「・・・」


 「あっ! 分かった!」

 「ん?」

 「弥生でしょう!」


 図星をつかれ、思わず口を開けポカンとした。


 「やっぱりね、そうか、そうか~、弥生か~。」

 「?」

 「室長、弥生にご神託が下りたんですね?」

 「あ、ああ、よく分かったな・・。」


 本当に巫女というのは感が鋭い。

特にこのは鋭い。

性格は良く、竹を割ったような性格だ。

弥生と能力は遜色はないほどだが、弥生を静とすると、動である。

歳も弥生より1つ上で、弥生とは姉妹のように仲がよい。


 よく思うのは、この職場には日本人がむすめにしたい子で構成されたような職場だ。

上司である俺は、部下全てが娘のように思えてならない。

この国の宝であるこの子達を守り、この子達の仕事をやり易くするのが俺の仕事だと思うと誇らしい。

巫女と話しをしながら、すこしこのような事を考えていた。


 「室長! 人の話、聞いていますか!」

 「え?」

 「もう! 本当に室長は!」


 はぁ~、俺は室長で、お前の上司で偉いなずなんだけど・・。

これでは、俺がダメ親父で、娘に説教されているみたいだ。

まあ、このようにザックバランに話せるような職場にしたのは俺なんだけどね。

そうしないと彼女達の本音を聞けない。

なんせ中学を卒業したばかりの子から、20代の女性ばかりの職場だ。

とくに親元を離れてホームシックになられては困る。

そして、生真面目な子が多すぎて、自分の中に悩みを抱え込みやすい。

ご神託に影響がないように、ストレスの無いフランクな職場にしたことは功を奏していた。

 

 「で、なんだっけ?」

 「あ、そうだった、海外でご神託なんて聞いたことないんですけど?」

 「ああ、そうだよな。」

 「で、どうフォローすんのよ。」

 「いや、いつも通りさ。」

 「はぁ~・・、まあ、そうね、あの子ならそうなるか・・。」

 「ふん、お前、よくわかってんじゃないか。」

 「そりゃあ、室長と弥生と私だもの。」

 「あ、そう。」


 「で、今度はどんなご神託?」

 「おい、ご神託の内容なんて話すわけないだろう!」

 「あははははは、そうだようね~。」

 「まったく、室長をからかうな!」

 「は~い、じゃあ、これが今回の私のご神託のレポート。」

 「ああ、読んどくよ。

気を付けて御神託に向き合ってくれ。」

 「は~い、じゃあ、行ってきます。」

 「おお、無理すんなよ。」

 「お土産、期待しててね。」

 「何言ってんだ! ご神託に専念しろ!」

 「あたり前ではないですか、室長。」

 「・・・あ、ああ、そうだな。」

 

 呆れた顔で俺を見たあと、その巫女は室長室を後にした。


 はぁ~・・、世の中の娘を持つ父親は、娘にからかわれながら生活しているんだろうなぁ・・。

ご愁傷さまです。

そう思い、思わずため息をついた。


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