マリアナ

〜???(107回目)〜

まただ。また、最初にいた洞穴に戻されている。「僕が死ぬと,時が戻ってこの洞穴に戻される」というこの奇妙な場所での奇妙な出来事は,じつに107回目の復活となる今回も同じらしい。途中で数える事をやめようと思ったこともあったが、過去と同じ失敗をしないように死亡した回数と原因くらいは1回目からずっと覚えている。まあ、過去10回よりも前に何回目でどんな死に方をしたのかまでは、あまり詳しくは覚えていないが。

そして、107回目となる今回・・・現在分かっている、物理的な面以外で死んでしまう原因は、

「殺そうとすると死ぬ」

「物事を深く考えすぎると死ぬ」

「諦めたら死ぬ」

「狂ったら死ぬ」

以上の4つである。例えば、1回目で死んだ原因・・・アレは恐らく、あの巨大牛にトドメを刺そうとしたことが原因だろう。

また、2回目以降はあの巨大牛を殺さずに山を下っていったが・・・その道中では、充血した目が身体のあらゆる部位から無数に出現している鹿のような生物が二足歩行でうろつき回っていたり、断崖絶壁ともいえる長城が突然目の前に出現したりと・・・こちらの心を折ってくる仕掛けが多数あり、その結果、僕は死亡条件を1つ以上満たしてしまい、106回も死亡するという絶望感と苦痛を味わってしまった。

故に僕は、本能的に周りで起こった事象を一つ一つ気にするという、大半の人間が反射的にとってしまうであろう行動を放棄する事ができるようになってしまったらしい。所謂、無心というものである。もちろん、今まで通りに過ごしていることもできるが、ここは少しでも周りに気を取られた瞬間に首が飛んでいると思った方が良いと言ってしまっても過言ではないような世界だ。よほどの事が無い限りは無心で、ただ先は先へと進み続けるだけの方が、今までよりもずっと良いだろう。

ここまでくると、もう正気というものが何なのかがわからなくなってくるが、「狂ったら死ぬ」ということは、「狂っていなければ精神状態はどうでも良い」という意味でもある。という事は、それが人間的な目からすると狂気の沙汰に見えてしまうような、完全に無心となった状態でも、恐らくは構わないのだと思う。

「・・・」

僕は一本道を進む。巨大牛を無視し、こちらへ突撃してくる山羊を飛び越え、森へと入り、コウモリの群れが迫ってきたら伏せる。もう、この辺りの地形と生物がこちらに接触してくるタイミングは全て覚えた。後は条件反射と、どのタイミングでどう行動すれば良いのかを、無意識下で判断してそれを行動に移すだけだ。そして僕は今、もうすでにそれができている。

森を抜け、滝を突破してその奥にある洞窟へと入る。その洞窟では先に進み過ぎず、ある程度進んだら右折してまたしばらく進む。薄くなっている洞窟の壁を破壊籠手で破壊し、上り坂を進んで再び地上へ出て、後はしばらく道のりに進む。そして、突然上空から落ちてくる龍の死骸を避け、さらに先へ進むと・・・巨大な人骨の化け物スケルトンがいる。うん、ここまでは覚えてる。

でも、問題はここからだ。

あのスケルトンの奥には、小さな門がある。あの門が一体、何の門なのかは分からないが、恐らくあれを守っているのがこの化け物なのだろう。しかし、僕はどうやら、何かを殺すと自分も死ぬようなのである。何か、自ら手を下さずに殺せる方法は無いだろうか・・・。ちなみに106回目は、ここでスケルトンの倒し方を考えている最中に、「物事を深く考えすぎると死ぬ」という条件を満たしてしまったらしく、身体が破裂して死んだ。・・・死んでも記憶が引き継がれる以上、良い案が出るまで死に続けながら考える・・・。という事もできるが、それはフツーに嫌だ。もう慣れたとはいえ、死ぬことが恐怖であることには変わらないからである。痛いし、苦しいし。かと言って、闇雲に攻撃したところで殺してしまう事になる(104回目)。うーん、困ったものだ。

とりあえず僕は無心の状態から意識と感覚を戻し、スケルトンの攻撃を回避することに専念した。

「はっ!たっ!」

僕は振り回される右腕に飛び乗り、そのまま右肩まで登っていき、頭蓋骨の上へと飛び乗り、そこに伏せた。

「カタカタカタカタカタカタ」

僕は、図体に似合わない程軽快な音を上げながら騒ぐスケルトンの頭蓋骨に伏せたまま、そこから付近に硬そうな岩がいくつあるかを数えた。

「ひい、ふう、みい・・・4つ!ならいける!」

僕は頭蓋骨から飛び降り、見つけた4つの岩を順番に伝っていくようにスケルトンの周囲を駆け回った。

「カタカタカタカタ!!?」

そして、狙い通り、スケルトンは僕の小賢しい動きを目で追いかける事を諦め、4つ横に並ぶ岩の中の、右2つの間に僕が来た時に攻撃するように腕を構えていた。これが、僕の狙いとも知らずに。

僕はあえて、そのスケルトンが腕を構えている場所へと走ってみる。そして、右2つの岩に挟まれている隙間のような場所へ僕が足を踏み入れた瞬間、本当に、スケルトンはその大きな右腕を振るってきた。

やれやれ、本当に単純な骨で助かった。

僕はこちらに迫ってくる腕の射線上から身を躱し、ちょうど腕が僕の頭部の横をすり抜けていくタイミングで、その腕を思い切り押した。

「ガガガダァ!?」

よし、成功。僕の計画通り、押された右腕はそのまま勢いを弱める事なく、4つの中で最も右に位置する岩に激突して砕け散った。

「カカカタカタカタカカ、カカカカ、カタ、ガッ」

そして、そのことに激昂したスケルトンは続けて左腕を振り下ろしてきたが・・・。僕は続けて、同じ手段であっさりと左腕も砕いた。

「ガガガガガダガガダ、カタカタ、カタ」

両腕を失い、こちらに恐れをなしたスケルトンは、僕から逃れようと、軽快な音を鳴らしながら辺りを動き回る。しかし、両腕を失った事によりスケルトンはバランスを崩し、先程両腕を砕いた4つの岩と自分の体重に身体と脚を砕かれた。

「カタカタカタカタカタカタ」

そして結局、首以外がバラバラに砕け散ってしまったスケルトンは、必死に僕から少しでも離れようと首の根本を動かして前進した。しかし奮闘虚しく、スケルトンはやはり岩と岩の隙間に引っかかり、そのまま残った顔面も砕けてしまった。

「・・・。自爆しちゃった。」

こうして結局、僕は自ら手を下す事なく、誘導と回避、そして自爆だけで巨大な骨の化け物を撃破することができた。

そして、僕はその化け物の残骸には一切の手をつけず、そのまま奥の扉へと向かい、その扉を開き、さらに奥へと進んでいった。

〜???〜

もうかれこれ1時間くらいは経っただろうか。僕はずっと暗闇の中を歩いていた。何も見えない中、1時間も歩き続けるというのは、そこそこ精神にくるものである。というか、あの洞穴の中で目覚めてから、精神を削られてばかりのような気がするが・・・。いつまで経っても、ここがどこだか分からない。ここはどこだ?僕はなんでこんなところにいる?

・・・いけないいけない。こんな事ばかり考えていては、また「物事を深く考えすぎた」とかいう謎の基準に殺されてしまう。無心、無心・・・。

そして、さらに数十分後(多分)。僕は突然、広く先の見えない浅い湖のような場所に飛ばされた。

〜無意識の湖〜

「オオオオオオオオ・・・。」

湖の中に一人、立つ影がある。

「ワレ・・・ハ・・・ナンジ・・・。」

「はい?」

かなりゆっくりと喋る真っ黒な影のようなその姿と意味不明な言葉に、僕は思わず反射的に「はい?」と言ってしまった。

「ワレ、ナンジ、ノ、『キョウキ』ヲ、タイゲン、セシ、モノ・・・。ココマデ、ヨク、コロサズ、キタ!ワレ、ヲ、ウチヤブリ、オノガ、キョウキ、ヲ、コクフク、セヨ!!」

・・・つまり、この影みたいなものは、僕の「狂気そのもの」であり、これを殺さなければ、僕はこの世界から出る事はできないということだろうか。この影以外を殺してはいけなかったというのは、恐らく、この世界は僕の心で、この世界に存在する生物は一体一体が僕の感情や記憶だったからだろう。そして、感情や記憶が少しでも欠けた僕は僕自身じゃないから、それを一つでも殺してしまったら、死んでしまう・・・。やっと、この世界のカラクリが分かった。そう考えれば辻褄が合う。

「・・・ここまで僕を苦しめておいて、よくのうのうとそんな『試練を与える』みたいな事が言えるね。いいよ。そちらがその気なら・・・。この破壊籠手で、粉々に砕いてやる!!」

「ノゾム、トコロダ!破壊籠手バスターガントレット、セイセイ、カイシ!」

僕は破壊籠手を構え、同じくこちらに合わせて構える影に向かって一直線に襲いかかった。

「うおおおおおっ!!」

「アアァァァァァァァァァァ!」

互いの籠手から「ガキィン!」という音が鳴り、僕の自我と狂気がぶつかり合う。

「うおおおおおおおっ!」

「グギギギギギギギギギギギ・・・。」

「はぁぁっ!」

「ガァァァッ!」

籠手と籠手がぶつかり合い、大きな金属音のような音が辺りに反響する。影の方が作ってる籠手は、恐らく金属製では無いだろうが・・・。

(というか、僕の心の中であるこの世界において金属製もクソも無いとは思うけど、多分、僕の脳内における概念的な問題で、金属音が鳴っているように聞こえるのだろう。多分。)

「ヤル、ナ・・・。サスガ『自我』トイッタトコロ・・・カ。 」

「そっちこそ!僕の溜まりに溜まった『狂気』は伊達じゃないね!!」

「ハァァァァァァッ!」

「狂気なんかに負けないよっ!!穿て!破壊籠手!」

両者一歩も譲らず引かずに籠手同士をぶつけ合い、「自我」と「狂気」、自身の生と死そのものを分かつ2人の僕が、自身の意思力そのものを押し付け合う。この世界が心の中だというなら、僕の勝利条件は1つ。「自我」である僕自身が、その自我を強く持つこと。常に自分である事。それを忘れなければ、絶対に負けないはず!

「うおあああああああああああ!」

「シバァァァァァァァァァァッ!」

すれ違いざまに、互いの破壊籠手がぶつかり合う。

「・・・。」

「・・・。」

そして、その籠手は互いの手を抉り、身体を抉り、身体を引き裂いていった。

「・・・。うっ。」

「・・・。ゴハァッ!!」

僕は、身体中が裂けた痛みに耐え切れず、その場に倒れ込む。しかし影の方は、僕の爪に奥の心臓部まで切り裂かれたようだ。そして、『狂気』は口から大量の、血液に似た赤黒い液体を吐き出した。

「ミゴト・・・ダ・・・。ワタシ・・・ヲ、ウチヤブリ・・・。ジブン、ヲ、トリモドシタナ・・・。」

「ふん。君にわざわざ言われなくたって分かるよ。じゃあね、狂った僕。もう二度と会いたくないけど、また狂ったら、こうして自我を取り戻すための生贄になってね。」

「・・・ハハハ。ソンナノ、コチラカラ、ネガイサゲ・・・ダ・・・。」

「・・・はっ。まあ、僕がもう二度と狂わなければ良い話なんだけどね。」

地面から、光の粒のようなものが溢れ出してきた。この世界が消えるのだろう。何故だか分からないが、そんな気がした。深い深い、海溝よりも深い闇と狂気に満ち溢れたこの世界は、これにて終焉を迎えた。僕の意識は、これで戻るのだろうか?そこはどうなるかよく分からない。まあ、戻ったら戻ったでまた地獄なんだろうなーと、少しどころかかなり憂鬱な気持ちだが・・・とりあえず、今は一安心としよう。こんなご時世なんだ。気を引き締めっぱなしでは、いつかまたこんな風に狂ってしまう。

さあ、目覚めろ、僕。それまでは、少しの儚い安心に浸っているとしよう。

お休みなさい、僕。

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