悪夢

〜???〜

・・・あれ、僕は何をしていたのだろうか。

僕は確か図書館で、もう信徒を殺すことしか考えられなくなって、本能のままに奴らを殺していたら、いつの間にか強い衝撃を受けて気絶して・・・。あの攻撃をしてきたのは・・・人?信徒?・・・いや、でも、僕の意識があるってことは、人が手加減して僕の意識を一旦落として、正気を取り戻す手伝いをしてくれたってこと・・・?ここが死後の世界っていう線も捨て切れないけど・・・。そんなことを考えていてはキリがない。とにかく今は自分が生きていると信じながら、現在の状況を確かめないと。

「んう・・・。」

僕は近くを見渡す。周りには自分が持っていた破壊籠手バスターガントレットと、真っ白な・・・でも雪とは違う、ゴツゴツとした岩山のような風景が広がっていた。

「・・・?」

ここがどこかは分からない。図書館で暴走するより前に何があったかも、自分の名前すらも思い出せない。しかし、少なくとも、人々が次々と信徒化していったあの日までスラム街で生活していた僕には当然、見た事も聞いた事も無い場所だという事は分かった。まあ、そんな事が分かったところで、現状を理解する事に関して有益な手立てにはならないかもしれないが。

とにかく今は、動かなくては。面倒な事は後で考えよう。ずっとここにいるだけでは餓死してしまう恐れがある。僕は岩山の比較的平らな一本道のようになっているところを歩いて行き、何とか、周囲を見下ろす事ができる位置までたどり着いた。その後、僕はまず周囲を眺める。

・・・しかし残念ながらそこに見覚えのある街の景色は無く、代わりに。ここと似たような白い岩山が連なっている光景がどこまでも続いていた。

「はぁ。本当にどうしちゃったんだろ。」

少なくとも、僕がここから見える範囲に見覚えのあるハスエラ市街地は無いと分かり、この場所には信徒が存在しないかもしれないという事に半分は安心した。しかし、もう半分は、自分が今どうしてこんな事になっているかが気になりすぎて、その不安に押し潰されそうであった。

とはいえ、原因をいくら考えても、今の僕はここ・・・よく分からない岩山が連なる場所にいるのだから、仕方がない。まずはスラム街で生きていた数日前までのように、どれだけ小賢しくても、卑しくても、とにかく生きるすべを探さなくては。

・・・というわけで、まずは今、最も間近にある食べ物・・・かもしれない、そこら中にある白い岩に噛み付く事にした。

「あがっ!」

・・・!かなり塩辛い。白いからまさかとは思っていたが・・・これがハルトマン氏の言っていた「岩塩」というものか。

・・・うう、それにしてもしょっぱい・・・それに、喉が乾く。それなりに安定した水源もしくはそれに準ずる野菜を見つけるまで、岩塩は口に入れない方が良いかもしれない。

そして僕は食べ物を探すため、見渡す限り岩塩しか無い岩山を下り、とにかく、近くに何か食べる事ができそうな物が無いか、探索してみる事にした。

〜???〜

少し山のふもとへ降りてみる。すると、周囲にはおぞましい雰囲気が漂う森林が現れ、近くでは「モォー。」という鳴き声が聞こえ、普通の数倍も大きな牛を見つけた。・・・強い牛はこんなところでも生きていけるのかと驚いた反面、一応は食料になりそうなものがあって良かったと安心した。唯一の問題は、ヤツを狩らなければならないという事だ。調理?そんなものは必要ない。スラム街の不衛生な環境で不衛生な食べ物とも呼べないものを食べてきた僕が今更、生の牛肉なんかに侵されたりするものか。いくら破壊籠手があるとはいえ、何の影響か、ここまで巨大な牛は見た事がない。というか、なんなら普通の牛すらも、ハルトマン氏が持っていた図鑑に書いてあった絵しか見た事が無い。

「でも・・・やるしかない!」

すでに僕のお腹はペコペコだ。飢えが本格的に身体や心を蝕み始める前に、美味しい・・・かはともかく、ご飯にありつかなくちゃ!!

「牛さん!!覚悟っ!」

僕は破壊籠手を右手に装着し、こっそりと息を潜めて巨大牛(仮名)に近づき、バレるかバレないか、ギリギリな範囲まで距離を詰めた。さらに一歩を踏み出す。そして巨大牛がこちらに気づいた瞬間、僕は飛び上がり、牛側に一切の隙を与える事無く、その破壊籠手の人差し指に付けられている爪を尻の穴に、小指に付けられている爪は右後ろ脚の付け根にそれぞれ突き刺した。

「モォォォォォォ!!?」

巨大牛はこの攻撃で思った以上の痛手を受けたらしく、その場で必死に暴れ回る。僕は一旦距離をとってそれを回避し、続けてどんな攻撃をするべきか考えながら、巨大牛を観察していた。そして、巨大牛の動きが止まり、殺意に満ちた目でこちらを睨んだその瞬間、僕は全力で走って一気に距離を詰め、破壊籠手の拳と爪でアッパー攻撃を繰り出した。

「はぁっ!」

「ボァァ!!」

そして怯む巨大牛に、休む暇も無く追撃を加える。獲物を仕留める時は、迅速に、丁寧に、かつ、強欲に。ハルトマン氏から、もしスラム街から出て狩りをする事があったらそれを心がけるようにと言われていた。

「ウリャァァァァァァァァァァァ!」

殴る、殴る。ただひたすら、狩りの対象である巨大牛に目線を合わせて、破壊籠手の爪での引っ掻き攻撃を挟みながら、殴って殴って殴りまくった。

「ボババババババババババババ!?」

・・・よく考えてみれば、おかしい事だった。破壊籠手を装着している右腕で無我夢中に殴ったり引っ掻いたりしているだけなのに、巨大牛は反撃の構えをとることすらできないほどにダメージを受けている。普通に考えれば、いくら僕が少しばかり過酷な環境で生き抜いてきたとはいえ、ただの子供がこんなことを出来るはずが無い。なのに、僕はその異常なまでの力を一切疑わず、狩りに集中してしまっていた。

「ゔぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

胸部に違和感を感じる。それでも、巨大牛の身体から噴き出す返り血に酔った僕の腕を止める事は、僕自身にも適わなかった。

そして僕は、血を流しながら悶える巨大牛にトドメを刺そうとして構えを取った。しかし、

「ぐはぁ・・・?」

僕の態勢が、そこから変わる事は無かった。

「・・・?」

僕が構えた右腕を振り下ろそうとした瞬間、身体中から腹部に何かが急激に集まり、それが腹を内部から破裂するような痛みを感じたのだ。・・・いや、破裂「するような」ではなく、破裂「した」のだろう。

「うっばぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

何が原因なのかはわからない。しかし今、この僕は・・・間違いなく生死の境目で、死に向かって全力で走っている。嫌だ、嫌だ。死にたくない。こんなところで、訳もわからない理由なんかで。

しかし、そんな願いも虚しく、僕は腹部から流れ出る血の量と比例するようにだんだんと意識が薄れていき、しまいには、辛うじてまだ動いている自分の心臓の音しか聞こえない真っ暗闇の中で、気を失ってしまった。

ああ、やはりこういう感覚が「死」の感覚なんだなと、数ある死にかけた過去の経験と重ね合わせて思う。いずれはそんなことも考えられなくなり、僕はこのまま死んでいくのだろうなと思っていた。

しかし、僕の「狂気」は、そう易々と僕を逃してはくれないようであった。

〜???〜

気がつくと僕は、最初に自身が倒れていたあの洞穴で眠っていた。

「・・・あれ。どうしちゃったんだろ、僕。」

えーと、確か僕は腹が裂けて・・・。

腹が裂けて!!?

・・・あ。思い出した。いや、そんなに「思い出した」って、簡単に言えるような事じゃないけど・・・。とにかく、いろいろと思い出した。でも、一体・・・何が原因であんな出血を・・・?それに、何であの量の出血をして生きているのかも分からないし、何でまたこんなところに戻されているのかも分からない。

やれやれ。あんなバケモノが街を闊歩する世の中なんだし、今更こんなことが起こったところで大して驚かないけど・・・。まずは、ここが一体どこなのか・・・いや、「何なのか」を探らないと。

こうして僕はこの場所のトリックを探るべく、探索を始めたのだった。僕が今生きていられる理由も、よく分からないこの場所についても、まったくもって見当すら付かないが・・・。地道に探っていくしかないと思う。



なーんて、数日後にはそんな事思えなくなっちゃうんだろーなー。と、この頃はまだ軽く思っていた。何も考えずに、ただ、探索を続けていれば何とかなると思っていた。洒落にもならない考えが、冗談でも頭に沸いてしまった事を、後悔することになるとも知らずに。

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