神父の剣

〜ハスエラ大聖堂・北門〜

僕は・・・。

僕はこの大聖堂を守る。そう決めたんだ。たとえそれが無理だったとしても、僕はこの大聖堂と運命を共にする。それが聖職者として・・・律法と信仰に忠実な「神父」として生きてきた僕の・・・最初で最後の我儘だから。

「さあ、・・・最後の大仕事だよ。行こうか。」

そう言い、僕は教会の正門を開いて最終防衛ラインへと向かった。

〜ハスエラ大聖堂・最終防衛ライン〜

「マーク神父!!来てくださったんですね!」

「ああ!!僕も最後の砦に加わらせてもらうよ!!《戒めの杭》!『悪しき業に堕ちた民に、安息を!我らへ殺意を向ける者達へ、祈りを!この世に、神に仇なす者達へ、赦しを!』」

僕がかつて記憶に刻み込まれた言葉の詠唱を始めると、杭は光を発し、カタカタと動き始めた。

この《戒めの杭》は、生前、ここの神父をやっていた祖父からの贈り物なのだが・・・。これを握った瞬間に、この呪文のようなものが記憶に流れ込んできたのである。祖父曰く、「これはこの杭を然るべき時に使えるようになるための啓示だ」との事だったが・・・。当時の僕は、まるでその意味が分かっていなかった。

でも・・・今は何もかもが分かる。これが何なのか、どうやって使うのか。杭はもはや、僕の身体の一部と言っても過言ではない程までに記憶の奥深くまで存在が擦り込まれたような・・・そんな気がしている。

「『今こそ駆動せん、戒めの杭!』いや・・・《機械仕掛けの霊剣》よ!」

そして僕が詠唱を終えて杭を介すように天に祈りを捧げると、カタカタと揺れていた杭が空中へと浮かび上がり、十字架を模した輝く剣となった。

そして僕はこの時、確信した。この《戒めの杭》は、いざという時にこついう時のためのものであったのだと。また、幼い頃に祖父からもらってウン十年・・・。この道具はまさしく今、この瞬間のためにあるのだと。

「マーク神父・・・!これは一体・・・。」

「僕は『マーク・パリィ・スタイン』。ハスエラ大聖堂の神父だ。・・・たとえ誰がやられようとも、僕は最後までここで戦う!」

「「「「うおおおおおおおおおおっ!!!」」」」

僕は残った人々を指揮しつつ、僕自身も、戒めの杭だった剣を用いて信徒達をメッタ斬りにして倒し、信徒が聖堂内へと侵入しないよう、数時間にわたる防衛戦を続けた。

しかし・・・。奮闘虚しく、圧倒的に数で負けていた僕達は、少しずつ数で押し負けていった。士気だけは今までで最大だったと思うのだが・・・やはり、気持ちだけではやっていけなかったという事だろうか。

そして・・・。

「最終・・・防衛ライ・・・ン・・・全滅、です・・・。マーク神父だけ・・・で・・・も・・・。」

最終防衛ラインを最後まで守っていた騎士が、とうとう倒れてしまった。

「という事は、残すところ僕1人って事か・・・」

南側の防衛ラインにいた人々も急遽招集し、援軍として戦ってもらったのだが、それを合わせてもまさかの全滅だった。一体一体がまさしく人外と言える程の強さであるのにも関わらず、それが大聖堂の屋根裏から見ると粒のように見えるほど沢山いるのだから、困ったものである。ああ、本当に。

本当に・・・困ったものだ。

「グルァァァァァァァ!」

「うっ!」

僕は竜人のような姿になった信徒に殴られ、戒めの杭を手の届かない範囲へと落としてしまった。

「あ・・・。」


ぐしゃっ。


「・・・手遅れだったな。」

「ああ。ったく、ひでぇもんだぜ。」


これ以降、僕の記憶は無い。そして、こんな事を思っている時点で、僕はもう死んだのだと思う。もうじき、こんな事を考えることすら適わなくなるだろう。しかし・・・。意識が消える寸前に聞こえた、男女の声は一体・・・?

そして僕がその声の主を知る事は無いまま、間もなく、意識も思考も、全てが僕の中から消失していくのであった。


《マーク・パリィ・スタイン》

信徒に頭を潰され、死亡


〜トピック〜

人々その1


マーク・パリィ・スタイン

ハスエラ市街地の西方に位置する大聖堂である「ハスエラ大聖堂」の神父。幼い頃に同じく神父であった祖父から「戒めの杭」を預かる。神父という職業を天職だと思っており、信仰の有無にかかわらず、善き者を幸せにするためなら命すらも惜しまない。また、自身の職業へのプライドも強く、夢は、死ぬまでハスエラ大聖堂の神父でいる事。そしてその夢は、彼が望まぬかたちで叶う事となった。


エマ・ハイデルン

ハスエラ市街地で生活する老婆であり、ミハイル・ハルトマンの元・妻。かつて騎士学校に通っていた学生時代、星の数ほどいる強者を次々と薙ぎ倒し、戦闘能力だけは常にトップを保っていた。しかしそれ以外の成績がドン底だったためか、結局、職業は縫い物屋に落ち着いたらしい。

頼れる姉御肌で、若かりし頃は近所や学校内でも有名な、いわゆる「イケメン女子」だった。年老いた今もそれは変わらず、彼女は、頼れる老婆としてその人生を全うした。


ミハイル・ハルトマン

スラム街に住む老夫。エマの元・夫。かつてはちょっとした会社の社長であったが、会社の成長に拍車をかけるべく進めたプロジェクトが大失敗してしまい、破産へ追い込まれてしまった。全てを失った彼は、人間が人間扱いされない場所として有名なスラム街へと自ら赴き、そこで細々とした生活を送る事にする。そして少年「ルイス」と出会い、スラム街から出た事が無いという彼に自身の知識を授け、ルイスが信徒達に襲われた時も彼のもとへ斧を持って駆けつけた。それ以降、ミハイルがどうなったかは誰も知らない。

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