一匹狼 オドアケル

〜ハスエラ市街地・ハスエラ川〜

俺の住んでいる街に、とある怪しい男が来た。

そして、黒い装束を身に纏ったその男は、自身を「預言者」だと言って、人々に洗礼を授け始めたのだ。

その洗礼の方法とは、「紅い液体をたっぷりと溜めた浴槽に洗礼を授ける人を立たせ、その人の眉間を右手の人差し指で突いて浴槽に倒れさせ、『紅き力』を授ける」というものらしい。その紅い液体が何なのかは考えたくも無いが、洗礼を受けた人々は、病気が治ったり、と、様々な恩恵を受けているようだ。そして、その洗礼が今まさに、川辺で行われている。聖職者から律法学者、その他の貴族からやもめまで、様々な身分の様々な人々が、過去に洗礼を受けている経験のあるなしに関わらず、人々はその預言者からの洗礼を望み、ハスエラ川には連日、人々が行列を作る騒ぎになっている。人々の目は皆、必死にその洗礼とやらにすがりつくような、いわゆる「マジ」な目で、そんな人々がごった返すほど集まっている川辺の様子は、一種の狂気すら感じるほどだった。

「『洗礼』って、そういう効果、あったっけか・・・?」

俺はそう呟きながら、その洗礼が行われている場所を立ち去る。そして、

「洗礼って、本来、聖職者がその宗教への入信を望む人のために行う行為で、本来は「紅い液体」じゃなくて、川などでただの水や、「聖水」を用いて行うんじゃなかったっけか・・・。何をどうしたらああなるんだ?」

なんて事を思いながら、俺は自分の家へと帰宅した。

〜自宅・リビング〜

さて・・・。どうしようか。あの「紅い洗礼」は何か胡散臭いものを感じるが・・・この街の話題は今や、その預言者のことで持ちきりだ。それ故に、俺の好奇心はその話題に少なからず刺激される。

「洗礼・・・か。」

しかし俺の「傭兵としての勘」が、本能的にそれを、決して自分自身とって良い結果を招かないものであるという事を、すでに悟っていた。それに・・・。

「アイツらの目・・・どうにかなってやがったぜ。」

あんな狂気じみた目が「マジな目」になっちまっているアイツらは、間違いなくどうかしている。しかし、聖職者ですらもその狂気に侵される程だ。俺ごときの人間が呑まれるのも時間の問題だと冷静に考えてしまうのが、裏社会では「一匹狼」の二つ名で知られる傭兵である俺、「オドアケル・バーク」の弱点であった。俺は職業の都合上、今まで「現実」に目を向け過ぎてきたせいで、楽観的に現状を解釈したり、虚勢を張る事すらも出来なかったのだ。

故に俺は、忌まわしき「信徒」達が暴走したあの日、自らの心のみならず身体をも蝕む狂気によって「自身の首から大量出血を起こす」という謎の発作を起こしてしまい、そのまま死んでしまったのであった。

死ぬ間際、自分の脳裏に羊が聖職者らしき人間に殺されている絵がよぎった。俺はもう目をうっすらと開ける事も出来なかったが、それを見て、俺は久しぶりに「可哀想だ」という感情を抱いてしまった。戦場において、「可哀想」などという考えは常に捨てていたため、いつの間にか、日常生活でもそんな考えをしなくなってしまっていたが・・・これで俺は最期に、「一匹狼」から真っ当な人間に戻れたという事だろうか。そんな事を思ってた時にはもう意識などほとんど無く、何を考える事もできなくなってしまっていたが・・・いつか、世界が俺のような人間でありながら人間とは呼ばないような心を持ってしまった存在がいなくても済むような場所になったら良いなと思いながら、俺は息を引き取った。

まあ、そんな願いも、信徒よる人間狩りが始まった今では、叶う事の無い夢だろうが。


《オドアケル・バーク》

狂気による発作(大量出血)により死亡


〜トピック〜

オドアケル・バーク

年齢33歳。幼少期に不慮の事故で両親を失った彼は、そのまま成り行きで傭兵団に拾われ、幼くして団の分隊長となる。しかし、とある戦いによって団長が死亡した後、その傭兵団は解散となり、それから彼は「一匹狼」の二つ名で知られるように、単独での傭兵稼業を始めるようになった。

戦闘のエキスパートであるため、隙が少なく無駄の無い動きで、立ちはだかるもの全てを薙ぎ倒していくほどの実力者だが、幼い頃から傭兵という職業をやっている以上、少なからずその心は廃れており、少々、頭の固さと精神の乱れが目立つ。

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