白夜 〜血塗れの聖女〜

最上 莉駒

プロローグ

修道女 エリーゼ

〜ハスエラ修道院・多目的室〜

「ねえ、神父さん。『洗礼』って何?」

「『洗礼』っていうのはね。神様から、生まれながらの罪を赦してもらう・・・もっと簡単に言えば、『神様に信頼してもらえるようになるための儀式イベント』の事だよ。」

「へー!」

・・・脳内に、幼き日の記憶が過る。

「神による赦しなど存在しない」

私がそう思ったのは、修道院で迎えた、人生で17回目の誕生日であった。

私はまだ首が座ったばかりの頃に両親が【雑音???】病で死んでしまったらしく、物心ついた時にはもう、ここの修道院で生活していた。記憶にはノイズが入ってしまい、その病名は思い出せないが・・・両親が侵されていた、その病気は、感染力はほぼ無いに等しいものの致死率は非常に高く、感染してしまったら死ぬしかないほどの難病だったらしい。まあ、両親の姿はおろか、シルエットすらも記憶には残っていないが。

そして迎えた今日。本来なら、今日は修道院の皆が私の誕生日パーティーを開いてくれる予定だったらしい。私が修道女として日々を過ごしているハスエラ修道院は、「修道院」と言うには何故か少し規則が緩めで、このような催しを行う事も許されているのだ。多目的室にはファンシーな飾り付けがされており、基本的に質素な生活を心がける修道院にしては、それなりに豪華な料理も用意されていた。

しかし・・・どうして私がこのような語り方をしているのか。この手記を手にしているそこの貴方はもうお察しかもしれないが、実際にそのパーティーが行われる事は無いまま、開催不可能となってしまったのだ。そして私は今、この修道院からの脱出を余儀なくされている。それは何故か。

・・・目の前で無造作に倒れている修道女達のまだ温かい遺体と、それを今にも貪り食わんとする「信徒化した者達」を見れば、言うまでも無いだろう。

忘れもしないこの日。人々を赦し、この世界を悪魔達から守っていたはずである「神の愛」など存在しないと、私は確信したのだった。

「ヴヴヴヴ・・・」

「皆・・・。何という事・・・。」

そして私も、他の《信徒》達同様、預言者に化けた悪魔によって《信徒化》してしまった人々・・・つい数時間前までは人間怪物の群れを前に、なす術なく嬲り殺されてしまったのだ。

・・・そういえば、聖書にも書いてあったような気がする。偽預言者や偽メシアは、人々を惑わすと。・・・神は、これが本当の祈りの心を忘れ、ただの型式的・慣習的なものになってしまった神への礼拝をしていた人間達の末路だとでも言うのだろうか。

エリ・エリ・レマ・サバクタニわが神、わが神、なぜわたしをお見捨てになったのですか。私達への赦しなど・・・存在しなかったと言うのですか・・・?

意識が遠のいていく。開かない目をうっすらと開けると、目の前に惨殺された羊が見えた。こんな修道院の中なんかに、羊なんているわけがない。死を秒読みにして、とうとう幻視までもが私達、人間を笑うというのか。それともこれは、「良いものの象徴である羊が殺されている」という、「理性を保っている人間が支配する世界は終わった」事の暗示なのか・・・それを考えようとした時にはもう、私の意識は失われていた。


《修道女エリーゼ》

信徒の襲撃により死亡


〜トピック〜

修道女エリーゼ

年齢17歳。本名は「エリーゼ・カタリナ・プラトー」。ハスエラ修道院で生活している修道女。幼き日に両親が難病によって死亡してしまい、路頭に迷う事になってしまった。その後、両親の知り合いである神父に今後、どうすれば良いかを相談したところ、ハスエラ修道院を紹介してもらい、その日以来ずっとハスエラ修道院での生活を送っている。

美人で優しく、心が広い「よくできた女性」だが、武人気質で男性のような口調であるため、少々女性らしさに欠ける。

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