再会
村へと向かって歩いている途中、木影に人の姿があった。
御言は見て見ぬ振りをし、鬼人も関わらないように通り過ぎようとするが男は鬼人達に気づくと小さな声で話をかけてきた。
「……よぉ…鬼人じゃねぇか。」
目を合わさないように歩いていたが懐かしい男の声に鬼人は反応してしまい振り向いてしまう。
「………金太郎…か?」
だいぶ姿が変わってしまってはいたが男の正体は以前、旅をしていた仲間の金太郎だった。
「おうよ…元気そうで何よりだが、そいつらは?」
「えっと……オラの兄弟だ。」
「兄弟…ってことは、そいつが直義か。」
「違うよ、こいつは御言。それからこの子は梅って名前で。」
「そうか…。」
「その…金太郎はそんな格好で何を?」
「狐に化かされたんだよ。」
深刻な顔をし、顔の前で手を組む金太郎はいつも着ていた派手な服を着ておらず、下は丸出し、上も丸出しな状態だった。
「……狐って…取り敢えず下隠せよ。」
「うるせぇなほっとけ、隠したくても隠すものがねぇんだよ…その頭の風呂敷寄越せよ。」
すっぽんぽんの金太郎の姿に目のやり場に困った鬼人は頭の風呂敷を取ると金太郎へ返した。
「ぐっ…ふふっ。」
「笑うんじゃねぇよ…。」
風呂敷を身につけた金太郎の姿を見て鬼人と御言は思わず、吹き出してしまう。
金と書かれた文字がちょうど股間の中央あたりにきてしまい、なんともおかしな姿を曝け出していた。
「わりぃ…ってあれ?熊座右衛門は?」
「………死んだよ。」
「……は?」
「彼奴は死んだ、もうこの世にはいねぇよ。今頃、あの世で楽しく暮らしてんじゃねぇのかな。」
「いや…死んだって…どうして…。」
「……話せば長くなっちまうからよ、ゆっくり話してぇんだ。けど…その前に…やめてくんねぇかな、その嫌〜な殺気を放つのをよ。」
殺気とは何のことを言っているのか分からなかったが後ろにいる御言の様子が少しだけおかしいことに気づく。
振り返ると御言は眉間にシワを寄せながら鋭い眼差しで刀に手を置き、金太郎のことを睨みつけていた。
「……お前が…金太郎か…。」
「だったら…?」
「お前の仲間に桃太郎という男がいるな、そいつは今どこにいる。」
「…さぁな、野暮用があるって言って、どっかにいっちまったよ。」
「…正直に話せよ…。」
「しらねぇよ。」
今にも殺し合いを始めてしまいそうな二人は火花をチラつかせ睨み合いを始めると鬼人は二人を止めようと間に入ってしまう。
「なっ…なぁ、何を二人は話してるんだよ。その…仲良くしようぜ…なっ?」
必死にこの場を和ませようとするが二人の険悪な雰囲気はさらに増し、完全に鬼人は蚊帳の外にされた。
「そいつを抜いてもいいが…抜いたら最後…お前さん…痛い目見ることになるぜ。」
「ふんっ、武器も持たず、丸腰のお前に負ける用途などどこにもない。お前の方こそ、知っていることを吐かなければ…斬るぞ。」
「お前…本当に分かっちゃいねぇのな…。武器を持って自分が優位に立ったと粋がる奴は三下のやることだぜ。」
「…ぬかせ…。」
どちらか一方が少しでも動いてしまえば、二人はたちまち殺し合いを始めてしまうであろう。
間に挟まれる鬼人にもそのことが分かっていた。
どんな事情かは分からなかったが止めなければならないと感じた鬼人は二人へ止めるように言う。
「いい加減にしろよっ、こんなことをしても意味なんてないだろっ!!!」
「意味ならある…。」
「御言はなんでそこまで金太郎のことを目の敵にするんだ。」
「そいつが…俺の家族を殺した男の仲間だからだ。」
「えっ…。」
御言の口から衝撃的な言葉が聞こえる。
御言の家族を殺した男の仲間、最初は鬼人は聞き間違いだと思っていた。
だが、御言の鬼気迫る様子から嘘をついているようにはとても思えない。
一瞬、頭の中に田吾作の姿が思い浮かぶ。
金太郎は必要があれば知り合いでも斬ってしまう男だ。
もしかしたら、本当に。
「なぁ…それは本当のことなのか?」
「俺からはなんともだな。まっ、いずれ分かることだからよ。そんなことよりも鬼人、お前そんな奴とじゃなくて俺と一緒に来いよ。お前に会わせなきゃならん奴がいるからよ。」
「鬼人、そんな奴の言葉に惑わされるんじゃない。」
「うるせぇな、これじゃ落ち着いて話もできねぇよ。悪りぃけど…やっぱお前寝ててくれよ。」
そう言うと目の前から姿を消し、御言の後ろへ一瞬で回り込む、そして金太郎は御言の首を後ろから絞めた。
「ぐっ…かはっ。」
「金太郎っ!!!」
抵抗しようにも一瞬の出来事に御言はなす術がなく、首をガクッと下へ落とすと金太郎は手を離し、地面へ寝かせる。
「安心しろ、死んじゃいねぇから。そんなことよりもこれでやっと本題に入れるな。なぁ…鬼人…お前のその持ってる刀…俺に渡してくれねぇか。」
「刀って…何のこ「封魔の矢の在り処を知ってんだよ。」
「えっ?」
「俺はよ、全部知ってんだよ。血吸の破壊の仕方も何もかもな。」
何十年と生きてきて血吸の破壊の仕方が分からなかった義輝だったが、目の前にいる金太郎は義輝でさえ分からなかった破壊の仕方が分かると鬼人へ告げる。
その情報は嘘でも知っておきたい、だが金太郎をどうしても信用する気にはなれない。
「何で…金太郎が血吸を?」
「言ったろ、全部知ってるって。もう時間がねぇんだ、真実が知りたいのなら…そいつを俺に渡してくれねぇか?」
「それは…できない。何をそんなに焦ってるんだ、教えてくれ。」
「知りたいのならそいつを渡してくれ。」
目の前にいる男の容姿は確かに金太郎のはずだった。
だが、いつものような余裕はなく、何かに焦っているように見える。
「今の金太郎は信用できねぇ。何があったんだよ。」
「……お前が渡せねぇって言うのならしょうがねぇな。お前もこいつみたいに寝ててもらうしかねぇな。」
指の骨を鳴らしながら金太郎は鬼人へゆっくりと近づいてくる。
鬼人は慌てて背負っている梅を地面へ下ろし、遠くへ行かせる。
「この刀は渡せねぇよ、金太郎の目的が何なのか分かんねぇけど、それ以上こっちに来るって言うのならオラは…。」
父の形見の金棒を手にすると地面へ突き立てる。
「……そんな懐かしいもん、ぶら下げてよぉ。あっこで修行して強くなったつもりかは知らねぇけど、自分にあってないもん使ったってうまく使えなきゃ意味はないんだぜ?」
「…これは父ちゃんの形見だ。きっとうまく扱えるさ。」
「そうかい…だったら、少しは根性見せてみろよ…。」
そう言うと金太郎は全速力で鬼人の元へと向かっていく。
鬼人も迎え撃とうと金棒を構えたが、次の瞬間、地面へ倒れていたのは鬼人だった。
「まったく…お前はあの頃と何も変わっちゃいねぇな。」
何をされたのか、何が起きてこうして地面へ寝ているのか分からないが一つだけ鬼人は分かったことがあった。
それは金太郎は以前、旅をしていた時から本気を出していなかったことだった。
自分の状況が理解できていない鬼人の目の前でしゃがみ込むと金太郎は鬼人の首元を掴み、持ち上げる。
そして、金棒を鬼人から取り上げ、くるくると回し、地面へ突き立てた。
「返せよ…。」
「返して欲しいのなら俺から奪い返してみな。」
「返せって言ってるだろっ!!!」
怒鳴り声と共に金太郎へ襲いかかる鬼人だったが金太郎の動きについていけず、気づけば地面へまた倒れていた。
「言ったろ、お前はあの頃と変わっちゃいねぇって。」
立ち上がろうと身体に力を入れるが上から金太郎に押さえ込まれ、身動きが取れず、鬼人はその場で芋虫のようにジタバタとする。
「違うっ、もうあの頃のオラじゃないんだ。だから…。」
「…いいや、出会った頃のウジウジしてた時とお前は何もかわちゃいねぇよ。自分の中にある鬼の力を恐れ、まともに戦うことすらしないお前はな。お前がもっと早くに鬼の力と面と向かって向き合っていたらあの爺ちゃんは救えたんじゃねぇのか?」
「…それは…。」
「お前は今も昔も何一つ変っちゃいない。嫌なことからは逃げてばかりでよ、現実を見ようともしねぇ。お前にいいことを一つ教えてやるよ。お前の父親の鬼助は死んだ。」
「はっ?」
「鬼助だけじゃねぇ、河童も椿もみんな死んでんだよ。」
金太郎が何を言っているのか理解ができなかった。
鬼助や椿、河童が死んでいる。
そんなことを信じたくはない鬼人は力一杯に金太郎へ抵抗する。
「嘘だ…黙れっ!!!」
ジタバタと暴れ出す鬼人の身体をひっくり返すと首元を掴んで持ち上げ、二人は額をぶつけ合う。
「嘘じゃねぇっ、いい加減にしろよ…ちゃんと現実見ろって言ってんだよっ!!!」
「嘘…だっ!!」
「熊もみんな死んじまったんだよ…それは何でか分かるかっ、みんなお前を守ろうとして死んだんだよっ、頼りねぇ救えねぇ馬鹿なお前を守るために……お前がしゃんとしなきゃよ、何にもない関係のない奴らが死んでいくんだよ…田吾作だって…爺ちゃんだってっ…それが嫌ならよ、今よりももっともっと強くなれ…テメェの中にある鬼の力を受け入れろ。その力は父親から授かったもんだろうがっ…………だからよぉ…俺が言いたいのはさ……」
眉間にシワを寄せ、目を瞑る金太郎の目尻から涙が流れ、鬼人の頬へ落ちていく。
「金…太郎…。」
「自分を…嫌うな…。その力は…父ちゃんからもらった大切な贈り物なんだよ…だから…お前は…その力を…捨てんじゃねえよ。」
何故だか分からないが鬼人も金太郎と同じように涙が流れ。そして鬼人は金太郎の拳が見えてすぐに意識を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます