数週間後…。

二人は山を超え谷を越えそして森を歩き、御言の言う村を目指していた。

「封魔の矢…か。一体、そんなのどこにあるんだろうな。」

「…さぁな、さっきの村でも情報がないし…俺にも分からんよ。」

義輝の手紙に書かれていた封魔の矢。

途中で二人はいくつかの村に立ち寄り、封魔の矢のことについて聞いてみるも誰もそんな矢のことは知らず、この呪われた刀を本当に破壊してくれるのか、そもそもそんな矢が本当に存在するのかどうかを御言は疑問に思っていた。

「こんな刀が…呪われているともあまり思えんしな。」

「…ただの刀にしか見えねぇよな。」

ボロボロの鞘に入った血吸を手に取り、調べてみるがそんな恐ろしいものには感じない。

「爺ちゃんの…勘違い…とか?」

「それならば骸が襲ってきた理由が分からんだろ。骸はこの刀を狙ってやってきたみたいだしな。」

屋敷の外で三人を襲った骸。

骸の目的はこの刀であるが、この刀を手に入れて何をするつもりだったのだろう。

「…一度…抜いてみるか…。」

「オラはやだよ。」

「………俺もだ。」

鞘から抜けば何が起きるのかわからない、狂気に堕ちるとは一体、どういうことなのだろうか。

結局、二人は不気味で怪しい刀を交代しながら持ち歩くことに決めた。

「なぁ、御言の言う村ってまだまだ離れてるのか?」 

「いや、この先に小さな村があってな、その先にある。このまま歩いていけば今日中には着くだろう。」

「ふ〜ん、そこにはどんな人がいるんだ?オラみたいな半妖が立ち寄っても気味悪がらないのか?」

「……一応…大丈夫だと思うが…あの金と書かれた布を頭に巻いておけ。村の中にいる人達の中には鬼に家族を殺された者もいる。あまり揉め事は起こしたくないからな。」

「…分かった。」

これまで訪れた村も鬼に襲われた傷跡を残し、村人達は皆、鬼に対して怒りを露わにしていた。

御言が鬼人に角を隠せと言わなければ、鬼人はきっと村人の怒りをかっていただろう。

自分が鬼であることに鬼人は少しだけ肩身が狭くなってしまった。

「気にするな……と言っても無駄か。」

「…いや、別にそこまでは気にしてなんかないよ。今がどんな時代なのか、ちゃんと分かってる。だけどよ……それでも…何で鬼が人を襲うのかオラにはわかんねぇんだ。」

「それは…俺にも分からんよ。ただ、鬼も人も変わらない、人も人を襲う。自分の持つ力が強大な物であればあるほど、生き物というものは傲慢になっていくんだ。」

「何でこうなっちまったんだろうな。オラ達みたいによぉ、助け合って生きていけばいいのにさ。」

「生き物は心がある以上、それができないんだよ。心にある感情がそれを邪魔するんだ。自分とは違う恐ろしい容姿をしたものを見た時に恐怖や嫌悪感を抱いてしまう。例え、そいつがどんなに優しい心を持っていようともな。」

「……心…か。」

「だが、いつかはお前のいう通りに手を取り合う時代が来てくれたら…いいな。…そんな話をしていたらほら、見えてきたぞ。」

答えの見つからない会話をしているといつのまにか村が見えてきた。

だが、村の様子は御言の知っていたものとは違う。

「なんて言うか…活気がない村だな。」

「いや…いつもはこんな風では…。おいっ、婆さんっ。」

目の前を横切る老婆に声をかけるが老婆は御言に目を向けずに歩いて行った。

「愛想の悪い婆さんだな…なぁ、早いとこ先に行こうぜ。」

「おかしい…俺のいた時はもっと皆生き生きとしていたのだが…。」

「生き生きしてたって…今じゃ、ちらほらと人が歩いてるだけだぞ。」

村の中へ進んでも御言の言うような活気に溢れている面影はどこにもなかった。

それどころか村人は皆、汚らしい格好をして顔を汚している。

「先の村へ進む前に…何があったのかを調べてもいいか?」

「…構わないけどあんまり長居はしたくないな。」

この村の光景はサイショの村の光景と似ている、鬼人はあの村でのことをあまり思い出したくはなかった。

「あっ……。」

そんなことを考えていると鬼人は隅で蹲っている小さな少女がいることに気づいた。

何やらもそもそと動き、怪しい動きをしている。そんな少女のことが気になった鬼人は近づき声をかけることに決める。

「……べー………べー……。」

少女は蹲りながら小さな声で何かを喋っているようだった。

「おい、どうしたんだ?腹でもいてぇのか?」

声をかけるが少女は変わらず、ぶつぶつと何かを話している。

「なぁ…っ!?」

反応のない少女に鬼人は肩をつかむと自分の方へ振り返らせたがその顔を見た途端、声を失った。

振り返った少女の顔は血で真っ赤に染まり、涙を流しながら舌を出し続けていた。

「お前…何があったんだ。」

「にいちゃ…にいちゃなの?」

「えっ…とオラはお前の兄貴じゃ「にいちゃっ!!!」

目が見えない盲目の少女は鬼人のことを自分の兄だと思い込むと鬼人の体に抱きついてくる、鬼人はどうすればいいのか分からず思わず固まってしまうと御言の足音が聞こえる。

「鬼人、その子は?」

辺りを調べていた御言が戻ってくると鬼人は分かる範囲のことを御言へ説明を始めた。

「そうか…君、この村で何があったのか分かるかい?」

「……にいちゃが知らない人と話しちゃいけないって…言ってた。」

「……にいちゃ、この子に何があったか聞いてくれ。」

「いや、だから俺はにいちゃじゃ…。」

「色々と調べてみたが誰も話そうとはしなかったんだ。だからこの子だけが頼りなんだよ。にいちゃ、聞いてくれ。」

偽りの兄を演じることに罪悪感が押し寄せるがこのままでは何も分からないままだと思った鬼人は渋々、御言の頼みを聞くことにした。

「なぁ…何があったのか教えてくれるか?」

「うん。けど、にいちゃも知ってるでしょ。」

「いや〜しばらく会えなかったろ?だからオラがいなかった間に何が起きたのか知りたくてさ。」

「わかったっ。えっとね前にね、おじさん達が来てね、それでねなんかね、みんなを広場に集めてね、なんかしてたの。」

いまいち少女の話が理解できなかった二人は眉をハの字にすると顔を見合わせる。

「何かって?」

「分かんない、だってにいちゃが目を隠してたから。けどねけどね、怖い声が聞こえたの。」

「怖い声?」

「うん、隣の家に住むおばちゃの叫んでる声。」

「その他には?」

「にいちゃの嫌いなおじちゃの怒鳴り声とかも聞こえたよ。けど…その後ににいちゃが怖いおじちゃ達に連れてかれて…それでおらもつれてかれてな…にいちゃがおらににべーってして…それでおらはわらって…それで…にいちゃは……あぁ…。」

今にも泣き出しそうな顔をする少女の頭に手を置くと自分の方へ引き寄せ優しく鬼人は抱きしめ、背中を摩る。

何と無くだが話の内容を理解した鬼人のその顔は怒りに染まっていた。

「お前の名前は?」

「…にいちゃ…この人と話してもいいの?」

「ああ、この人はオラの友達だ。」

不安そうな顔をした少女は鬼人の胸に顔を押し付け、御言の方を向うとはしなかったが、鬼人の言葉を聞いた少女は安堵の息を吐き、御言への警戒心を説いた。

「…おらは梅ってんだ。」

「梅か…良い名前だ。それで梅のその目はいつから見えなくなったんだ?」

「…わかんない。急に真っ暗になって何にも見えなくなっちゃった。けどなけどな、まだあの時のにいちゃの顔は覚えてるんだ。眉をハの字にしてなべーってする顔。」

「梅、お前も連れてかれたって言ってたけど、にいちゃと一緒に連れてかれたのか?」

「うん、にいちゃは隣にいたよ。そんでな、ながーい棒を持ったおじさん達がな、おらとにいちゃとかあちゃととうちゃの近くに来てな、棒を突っつくんだ。」

「そのおじさん達は…鬼だったか?」

「ううん、向こうの村にいるおじさん達だった。」

御言は少女の言葉に眉をひくつかせる。

少女は指を指しているがその先には村などなく、池があるだけだった。

「北か南か…どっちか分かるか?」

「北だよ。」

ここまで歩いてきた道は南から、北にあるのは御言達の目指している村、つまりは御言のいた村から少女の言うおじさん達はきた。

「なぁ…御言。お前は何も知らないのか?」

「…分からん。」

この村を襲ったのが本当に御言の仲間ならば、あって確かめる必要が御言にはあったが、そんなことをするようにはとても思えず、少女の間違いだと疑い始める。

「…それにまだ俺の村の者がやったとは決まっていないだろ。」

「別に疑ってるわけじゃねぇけど…。」

「一度村へ行く必要があるが……問題はその子をどうするか…だ。」

ピッタリと鬼人の足にくっつく少女を鬼人は引き離そうとするが少女は離れようとはしなかった。

「…なぁ、オラ達は今からこの先にある村に行かなきゃなんねぇんだ。そこにお前は「や!」

「やって言われてもな…。」

チラッと御言の方を向くと御言は首を横へ振る、御言は少女を連れていくことに反対しているようだった。

だが、この子をこのまま放っておくことができない鬼人は連れていくことに決める。

「鬼人…何をしているんだ。その子は連れていくことはできんぞ。」

「そうは言ってもよ、放っておくことなんか出来ねぇし。なぁ、梅言うことはちゃんと聞けるか?」

「うんっ!!」

「ほらな、大丈夫だよ。」

何が大丈夫なのか御言には分からなかったが御言も少女のことが少し気になり、折れてしまう。

「はぁ…そのかわり、これを被って大人しくしていろよ。」

御言が少女に被せたものは血で赤く染まった布だった。

「ばっちぃ。」

「我慢しろ。ほら、オラの背にのれ。」

紐をくくりつけた金棒を前に移動させ、少女を背中におぶると鬼人は御言と共に村を出る。

「そういや、御言の言う村ってどんな村なんだ。」

「村というよりは人のいなくなった村を俺の仲間が駐屯所として活用している場所だ。この辺りは鬼がうろついているからな。人々を守る為に俺達は戦っている。お前にもその戦いに参加してほしい。」

「オラに鬼と戦えって?」

「必要があればな。」

「そうか…だけど、戦うかどうかはオラが決める。」

「それで構わんよ。」

御言の言う鬼がどんな鬼なのかは分からないが鬼人にとって鬼も人も同じ種族であることには変わりはない。

そんな鬼と戦うことができるのか、鬼人は疑問を持ちながらも村の真相を確かめる為に先へと進んで行った。

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