第8話 翼の女
「誰だ!?」
康生は咄嗟に少女を庇うように前に出る。
その際に少女の体がプルプルと震えていることに気付く。
「――もしかしてそれは人間ですか?」
翼の女は康生には目もくれずに少女に話しかける。
「…………」
しかし少女は口を動かそうとしない。否、口を動かすことも出来ぬほど体を縮こまらせ震えている。
「まぁいいでしょう」
そんな少女を見て翼の女は短く吐き捨てる。
「さぁ、早く帰りますよお嬢様」
「おい!待てよ!」
咄嗟に少女に伸ばさされたその手を掴む。
少女が怖がっている以上、この女は敵だと康生は認識したからだ。
「人間風情が私に触れないで下さい」
なんだと――そう言おうとした康生だが、次の瞬間康生は宙に浮いていた。
「がはっ!」
そして次の瞬間、康生は地面に叩きつけられていた。
その出来事は本当に一瞬で、少女は始め何が起こったのか分からなかった。
『成る程、中々速かったですね。それに比べてヒキニート様、少々油断し過ぎですよ?』
「う、うるせいっ!」
土埃を払いながら康生は立ち上がる。
咄嗟に受け身を取ったおかげで、多少背中が痛くなっただけのようだ。
「……人間風情のくせして中々やりますね。それに今の声は……もしかして機械というものですか?」
康生が立ち上がった時も多少眉を動かしただけで、それ以外翼の女は全くと言っていいほど表情を崩さなかった。
それよりも機械の事を言われた康生自身が表情を変えたぐらいだった。
「へ〜、異世界人にも機械について知ってる奴がいるのか〜」
少女の話を聞いた限りだと異世界人は機械のことを知らないと思っていたけど、AIの声を聞いただけで機械と判断した翼に女に素直に感心した。
同時にそれほどまでに翼の女が賢い奴だと理解する。
「――さぁお嬢様早く帰りますよ」
だがそんな康生は無視して翼の女は再度少女に手を伸ばす。
少女はその手を取ろうかと躊躇う。そして少女のその反応を見て翼の女は不愉快そうに顔を険しくする。
「もしかしてそこの人間に何か吹き込まれでもされましたか?」
と、そこでようやく翼の女は康生をじっと見据える。
「ち、違うの!その人は何にも関係ない!」
だが瞬時に少女の声によりその視線は再び少女の方へと戻る。
「だったらなんだというのです?お嬢様はご自身の立場が分からないほど馬鹿ではないはずですが」
「そ、それは……」
またしても少女は言い淀まる。さっきの異世界生物に言っていた口調とはまるで違う。
この女に対して何か言い返すことを恐れているように。
「――そうですか。やはりそこの人間が関係あるようですね」
「だっ、だから……」
違う。そう少女が否定しようとするが、翼の女はすぐさま言葉を重ねる。
「いいえ違いません。もし違ったとしてもそこの魔物達を倒したのはその人間なのでしょう?お嬢様がそんな事をするはずがないですからね」
「そっ、それはっ……!」
咄嗟に言い返そうとするが、少女はその先の言葉が出てこない。
だって翼の女が言った言葉は紛れもない事実なのだから。
「それじゃあお嬢様しばらくそこを動かないで下さいね」
これ以上もう話すことはないと、そういう態度で翼の女は少女を視界から外す。そうして康生をじっと見据える。
「……やっと話終わりました?」
そこでようやく声を発した康生はどこか弱々しい様子であった。
「ふっ、今更怖じ気付いても無駄ですよ」
翼の女はそんな康生を見て馬鹿にするように一笑する。
『いいえ違います』
とそんな中AIが否定する。
「何が違うのですか?現に今この人間は縮こまっているじゃないですか」
確かに康生は今、弱々しくて先程の自信が感じられないほど縮こまっていた。
『だからそれは違います』
それでもAIは再度否定する。康生を庇うかのように。
「一体何が違うといいうのですか?」
『それは……』
そうして指摘されたAIは言葉に詰まる。
――ほら違わないじゃない。と翼の女が言おうとした瞬間、それより前にAIが口、否音を発した。
『ご主人様は、ご自身を無視して話をされてとても傷ついてしまっただけです』
とAIは堂々と宣言するのであった。
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