第7話 五年前
「――今から丁度五年前。私たちはこの世界にやって来た」
『やって来たとは具体的にどういう手段でやって来たのですか?』
「それは……」
AIの質問に少女は言葉を濁す。
しかしAIも康生もその先を急かそうとはしなかった。
ただ少女がしゃべるをじっと待っていた。
「それは……私たちにも分からないんだ」
「分からない?」
「うん……」
思わず康生は聞き返すが、少女の表情を見るにとても嘘をついているようには見えなかった。
それほどまでに康生をじっと真剣に見つめ返していた。
「気づいたら私たちはこの世界に来ていた。それまではいつもと変わらない何気ない生活を送っていた。それが突然地震が起きたと思ったらいつの間にかこの世界に来ていた。その原因は本当に全く分からないんだ」
きちんと説明する事が出来ぬことを申し訳ないと思っているのか、少女はまるで謝罪をするかのように語った。
そんな中康生は頭を必死に回転させる。
(――なるほど、大陸ごとこの世界に転移してきたのか)
これで康生は魔物が沢山いたことに納得した。
『――あなた達がこの世界に来てから一体が何があったんですか?』
「っ……」
AIの問いを聞き少女は顔を歪める。その問いに対して答えたくないような――もしくはしゃべりたくないような嫌悪の表情を浮かべていた。
それでも俺たちは少女が口を開くまでじっと待った。
少女が話したくないと言えばそれまでだし、もし話してくれるのならそれ相応の準備が必要だろう。
(まぁ、ある程度の予想はつくけど……)
恐らくは――
「せ、戦争が……起きたんです」
(やっぱり)
少女がゆっくりと口を動かして答える弱々しい言葉を聞きながら康生は確信した。
『大方、人間があの生物達の事を受け入れられず攻撃を仕掛けたのでしょう。全くいつの時代も人間は同じですね』
そこで一人納得したようにAIがしゃべりだす。
(いや、お前何様だよ)
なんて思わずツッコミそうになったが康生は咄嗟に口を閉じる。
今そんな事を言えば機嫌の悪いAIは確実に康生にストレスを発散してくるだろう。
そもそもどうしてAIに機嫌なんてあるのかは不明だが……。
「――怒らないの?」
不意に少女がじっと康生を向く。
その表情は先ほどから一転し、恐怖や恐れといったような顔をしていた。
「何について?」
そしてそんな顔をされても全く心当たりがない康生は素直に聞き返すことしかできない。
「それは…………私達がこっちの世界に来たせいであなたたちの星をこんな光景にしてしまった事を……」
少女の視線に合わせるように康生は改めて回りの光景について見渡す。
確かに瓦礫の山には先程の炎のような焼け跡やまるで何かのレーザーに焼き消された跡、さらには氷結漬けにされた物まであった。
これは恐らく全て魔法の力でやった事だろう。
それに気づき康生は流石だな、と素直に感想を抱く。
そしてすぐに少女に向き直る。
「別に今の話を聞く限り、こっちの世界にやってきたのだって意図的にやったわけじゃないし、
それに戦争に件については明らかにこっちに非がありそうだしな」
大方、異形の生物だからと言って話し合おうともせずすぐに討伐しようとしたのだろう。
だが相手は未知の力を使う。それこそ今の兵器で対抗が出来ないほどの。
人がそれに気づいた時にはきっともうどうしようもない状況にあったに違いない。
『それで人間は全て滅んだのですか?』
少女はすぐに首を振る。
「いいえ。人間はまだどこかで生きているはずよ。――恐らく地下で生活しているんじゃないかしら」
「地下にね……」
なるほど、どういうわけか敵は地下にまで進行してこなかったらしい。
そこでようやく康生が引きこもっていた地下室が無事だったのか理解できた。
(にしても俺が引きこもっている間にそんな事が起こっていたなんて……)
康生は未だに現実のように感じられなかった。それこそ長い夢を見ているような感覚だった。
それでも、先程の戦闘を思い出せばこれは嫌でも現実なのだと理解することになる。
(あれ?でもさっきの戦闘って……)
そこで康生はある事について気づく。
「そういえば君は異世界から来たって言っていたよね?なのにどうしてさっきは追いかけられていたの?」
そう、少女は異世界から来たといった。そして先程の生物も異世界から来たのだろう。
だったらそれはおかしなことじゃないのか?
「それは……」
と少女がそこまで言い掛けた瞬間、
「――探しましたよお嬢様」
少女の背後に黒い翼を生やした女が降りてきた。
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