第92話 もうすぐ


「ついに告白するのか!」

「声がデカいんだよバカ……」


 放課後になって、ファミレスで談笑する朝陽と千昭。

 広々とした四人席で対面して座る二人は、片や大盛り上がりではしゃいでいて、片や呆れ半分照れ半分でため息をつく。

 

「いやぁー、ここまで本当に長かった」

「誰目線で言ってんだ」

「だってそうだろ、俺たちずっと見守ってきたんだぜ?」


 そう言われてみれば確かに、千昭には色々と相談したし、背中も押してもらった。

 だからこうして進展を報告しているし、信用している証でもある。


 しかし、それとこれとは話が別だ。

 目の前のニヤついた顔は非常にウザったらしい。

 待っていましたと言わんばかりにノリノリの千昭は、前のめりになって朝陽に迫る。


「それでそれで? いつ告白すんの?」

「……夏祭り」

「近場であるやつ?」


 朝陽が頷くと、千昭も首を縦にぶんぶんと振る。


「めちゃくちゃいい」

「だから誰目線なんだよ」


 満足げな千昭はあれやこれやと一通り喋った後、ふと真面目な顔をした。

 

「まだ不安か?」


 そんな問いかけを、静かに否定する。


「もう大丈夫」

「そりゃよかった」

「なんでお前のほうが不安そうな顔してたんだよ」

「だってさあ、朝陽のことだもん。難しく考えすぎるとこあるじゃん」

 

 そう言われると否定しようがない。

 実際に難しく考えて、随分と遠回りをした気がする。

 

 ただ朝陽としてはそれで良かったと思うし、必要な過程だったと言える。

 冬華もきっと、同じように考えているはずだ。


「まあでも、顔見れば分かるわ」

「そんなじろじろ見んな。いつもと変わらないだろ」

「いや? 覚悟決めた顔してる」

「なんだそれ」


 軽く朝陽が笑って、千昭も同じように笑う。


 そうやって笑いあっているうちに、テーブルに人影が近づいた。

 店員かと思って顔を上げると、そこには制服を着た女子が二人立っている。

 

「お待たせー!」

「委員会お疲れ。結構長引いた感じ?」

「そうなんだよー、先生に仕事増やされちゃってさー」


 元気よく千昭の隣に座ったのは日菜美。

 必然的に朝陽の隣は冬華が座る。


 二人は二年生になってから同じ委員会に所属していて、今日はその集まりがあったらしい。

 朝陽と千昭は先に場所取りをして、後からこうして合流したというわけだ。

 

「まだ始めてないんですか?」

「二人が来てからにしようと思って」

 

 前でカップルがイチャイチャしているうちに、小さな声で会話をする朝陽と冬華。

 それは傍から見れば同じような雰囲気なのだが、当の本人たちにとっては平常運転だ。

 

「私たちが来るまでなに話してたのー?」


 能天気な日菜美の質問に、朝陽と千昭は目配せをする。


「夏休み、どっか遊びに行こうかって」

「そうそう、せっかくだし四人で遠出しようぜ」


 冬華の前で全てを言えるはずがなく、適当に話を合わせる二人。

 実際、このメンバーで遊びたいというのは前々から話していたことだ。


 しかし、それが裏目に出てしまうとは思ってもいなかった。


「はいはーい! 私から提案があります!」


 この時点では、なにも問題がなかった。


「手始めに、この近くにある夏祭りなんてどうでしょう!」


 あっ、と日菜美の周りからから声が漏れる。


「あれ、微妙な感じ?」

「いや、そうじゃないけど」


 チラリと横を見れば、ちょうど冬華と視線が重なる。

 それからすぐに前を向いた冬華は、にこやかに微笑みながら口を開いた。


「いいですね、四人で行きましょうか」

「やったー、ふゆちゃん最高!」

「もちろん俺らも行きたいけど……なあ、朝陽」

 

 千昭がなにを言いたいのか分かるが、気にすることじゃない。

 冬華が四人で行こうと言っているのだ。

 朝陽もそれに賛成だし、せっかくの夏祭りなのだから仲のいい友人と遊びたい。

 

 ただ、それは告白をしないということではない。


 これ以上、先延ばしにしないと決めている。


「夏祭り、楽しみにしとく」


 そう言うと、日菜美は大袈裟にバンザイをして喜んだ。

 対する千昭は呆れ顔で、冬華は変わらず笑顔でいた。


「それじゃあ早速、夏祭りの話を……!」

「おい待て、なんでここに集まったと思ってるんだ」

「……夏休みの計画立てるため?」

「ちげーよ。期末テスト対策だろ」


 夏休みの前に立ちはだかる定期テスト。

 その勉強会と称して集まったことを忘れてはならない。


 千昭も日菜美も勉強を真面目にするようになったとはいえ、気を緩めればすぐに成績が落ちてしまう。

 そしてもし赤点を取るようなことがあれば、夏休みは補修に追われて遊べなくなると言うわけだ。

 

「勉強頑張る……」

「それでよし」


 無理やりやる気を出させてから、予定通り勉強会を始める。

 

 途中でドリンクバーを補充するために、朝陽が席を立つと後ろから冬華がついてきた。


「二人きりほうがよかったですか?」


 冬華は、夏祭りのことを言っているのだろう。

 少し不安そうな顔で朝陽を覗き見る。

 

「いいや、俺も四人で行きたいと思ってたし」


 それに、と言葉を続ける。


「途中で偶然、二人になるかもしれないし」


 悪戯っぽく笑う朝陽に、きょとんと目を丸くする冬華。

 しかしすぐに破顔して、それから可愛らしい笑い声が続いた。


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