第97話 長い道のり


 ヨルプウィスト人間国へいくためには、いくつかの国を通らなければならない。


 ローレシア魔法王国は、この大陸の最南端にあり、さらには大陸中央に存在するおおきな湖から流れる、大河によって大陸の主要部位とは分かれている。


 この大陸から半ば切り離されたような部位、お隣のアーケストレス魔術王国とローレシア魔法王国のある場所は、その国柄の特性から「ウィザーズ半島」と呼ばれている。


 ヨルプウィスト人間国へ向かうためには、まずこのウィザーズ半島から本大陸へと渡らなければいけない。

 

 ルートとしては、トールメイズ大橋を渡りゲオニエス帝国へはいってから、グンタネフ王国を突っ切り、ヨルプウィスト人間国へといたるルート。


 あるいは、お隣のアーケストレス魔術王国へ入ってから、首の皮一枚繋がったような陸続きを通り抜けて、

 ペグ・クリストファーー無政府地帯ーーを通り、さらにパールディ星王国を通りぬけて、ようやくヨルプウィスト人間国に到達する。


 道のり的には後者の道のほうが短く、そして当然、ゲオニエス帝国方面のルートなど選べるわけがない。


 いまだ国交の回復しない、あの強欲なる侵略国家とはしばらく正常な付き合いなどありはしないだろう。


 そもそも、トールメイズ大橋の再建も進んでいないしな。


 あるのは、手に入れた領土を開拓するための土魔法で作られた簡素な橋だけだ。


「サリィぃぃ〜、まだヨルプウィストに着かないの〜?」


「レティスお嬢様、あと2週間は着きませんよ。まだアーケストレス魔術王国すら抜けてませんから」


「うぇー!? もう無理だわー、こんなの暇すぎて死んじゃうわー!」


「お嬢様、このエゴスとこちょこちょ遊びをするのはいかがでしょうか?」


 おい、このジジイ、いきなり仕掛けてきやがった。


 こっち見て反応伺いやがって。


 そもそも、レティスがそんな提案に乗るわけがーー、


「エゴス、いいわー! わたし負けないんだからーっ!!」


 乗るんかい。


「エゴス様、立場をわきまえてください。お嬢様もです。もうそのようなお歳ではないでしょう」


 あとちょっと、杖を抜きそうになったところで、アヤノの注意が針のように突き刺さる。


 短くうなり「それもそうねー!」と元気よく返すレティスに比べて、落ちこむエゴスのしょぼくれようが凄い。


 爺よ、強く生きてくれ。



 ⌛︎⌛︎⌛︎



 その日の夜、俺たちヨルプウィスト行き研修隊はアーケストレス魔術王国が王都、アーケストレスへと到着した。



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 〜 用語解説 〜


 ・「ゲオニエス帝国」


 世界最大の国力を誇る軍事国家。

 古くより多くの戦争をくりかえし、大陸の東側の国を統一、その勢いは200年前まで止まるところを知らなかった。

 だが、その勢いは西の超大国ヨルプウィスト人間国と、強国グンタネフ王国との国旗隣接によって、大きく抑制された。

 近年、帝国はその領土を伸ばすことではなく、強引な統一によって入り乱れた国内の複数の人種、文化、伝統の整理などに専念しており、軍事力を着々と伸ばしている。



 ・「アーケストレス魔術王国」


 ローレシア魔法王国とアーケストレス魔術王国は古くからの同盟国。

 古典魔術、近代魔術、現代魔術、すべての分野において両国は協力して魔法魔術の発展に努めてきた。


 たが、それでも魔術のはじまりはアーケストレスにある。彼らがそのことを誇りとし、強い自尊心を持っている。

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